民間ロケット開発や気象学、はたまた男性による子育てやサッカーなど、旺盛な好奇心で世の中を見渡し、それらを材に小説を多数執筆してきた著者の最新作は、「声優」という職業をテーマにした青春お仕事小説だ。
「2012年に僕の著書『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)が、『銀河へキックオフ!!』というタイトルでテレビアニメ化されたときに、収録現場を見学にいったのですが、それがすごく面白かった。声優さんがブースの中で声を発した瞬間に一つの世界が創造されることに感動して、これをテーマに小説を書きたいと思ったんです。ビジュアル要素がまだない音声だけの情報なのに、その他の全てが頭に補完されて、世界をまるごと提示されているみたいに感じました。それが新鮮な驚きで。僕の場合、目の前に面白いものがあると、つい反応してしまうことがよくあるんです(笑)」
主人公の結城勇樹は20代後半で実績なしの崖っぷち声優だが、夢は「声で世界を変える」ことだ。喫茶店のアルバイトで何とか糊口をしのぎつつ、ようやく手にしたのは、高校球児の熱い夏を描いた国民的人気漫画を原作にしたアニメ「センターライン」のレギュラーで、役どころは野球部の女子マネージャーの飼い犬サブ、である。頼れる先輩や、幼なじみで売れっ子声優の大島啓吾に刺激を受けながら着実に成長していくが――。
「声優は人気の職業ゆえに供給過多で、常に新しい人たちが虎視眈々とチャンスを狙っています。試しにTwitterで本書のタイトル『声のお仕事』で検索してみてください。『声のお仕事します』と宣伝するセミプロの広告がたくさんヒットする。勇樹くんも希望の役にありつけず四苦八苦しているものの、とても恵まれている方です。実際の声優業界は理不尽なほど競争に晒されていますが、みんなで作品を作り上げる楽しさだとか、真剣さ、プロ意識にはものすごいものがあって、それを描きたかった」
主人公達が互いに切磋琢磨するメインストーリーもさることながら、収録場面を通して描かれる劇中アニメも読みどころの一つだ。
「一応『センターライン』全26話のサブタイトルとストーリーは考えてあります。これだけで長編小説を書けるかも。また、勇樹くんや先輩声優たちのキャラクター造形は『銀河へキックオフ!!』に出演してくださった声優さんたちの影響を受けているので、アニメをご覧になってくださった方には1度で3度くらい美味しい作品だと思います(笑)」
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