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紀州を舞台にサーガを紡いだ<br />伝説の作家 中上健次

紀州を舞台にサーガを紡いだ
伝説の作家 中上健次

文・写真:「文藝春秋」写真資料部

 尾崎豊の伝説の初アルバム「十七歳の地図」は、映画化もされた中上健次の初短編集「十九歳の地図」から取ったタイトルだという。尾崎と同様に、中上健次も「伝説の作家」というに相応しい存在だ。

 昭和二十一年(一九四六年)、和歌山県新宮市に生まれる。父も母も離婚・再婚を繰り返し、とにかく複雑な生い立ちであった。高校時代をいわゆる「不良」として過ごす。その間、古今東西の膨大な量の読書をした。大学入試を名目に上京すると、新左翼運動や様々な文藝活動に関わる。結婚後は羽田空港での貨物の積み下ろしなどの肉体労働に従事しつつ、家計を支えた。こうした人生経験が、すべて作品に生きている。

 昭和四十八年から「十九歳の地図」「鳩どもの家」「浄徳寺ツアー」が続けて芥川賞候補となり、昭和五十一年、「岬」で第七十四回芥川賞を受賞する。戦後生まれで初めての受賞者だった。これに続けて「枯木灘」「鳳仙花」「千年の愉楽」「地の果て 至上の時」と、故郷・熊野を舞台に、自身や血族をモデルにした登場人物が繰り返し登場する作品を書き続けた。「紀州サーガ」と呼ばれる土俗的で濃密な作品世界には、熱烈なファンが多い。(写真は昭和五十年、丹鶴城址から故郷・新宮市を見下ろす。)

 平成四年(一九九二年)、故郷に近い那智勝浦の病院で、腎臓ガンで世を去った。四十六歳の若さであった。

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