本を語り合う機会
千葉県立鎌ヶ谷高等学校 大芝嶺花
読書というものは自分と本との一対一の関係であって、そこに誰かが入ってくることはないだろうと思っていました。しかし今回、「高校生直木賞」に参加して考えが大きく変わりました。いろいろな人の意見を聞いているうちにその本への印象が変化していったのです。本の新しい魅力を発見したようで嬉しく感じました。ところが同時に、私の中に多くの意見が存在するようになったので、最終選考の際には非常に悩みました。
そこで私は「読んだ人の心にどれだけ影響を与えるか」という点で考え『ナイルパーチの女子会』を選びました。この本は、登場人物を通して自分を見つめ直す機会を与えてくれました。読んでいて辛くもなりました。したがって人に勧めるべきかどうか、ずっと考えていました。しかし他校の方々の意見を聞いて、自分と向き合うということは、自分を好きになっていくことだと気付きました。『ナイルパーチの女子会』は、人と感想を語り合うことでどんな色にでもなれる本です。もっとたくさんの人に、この本を読んで欲しいと強く感じました。
選考会を終えた後、話し合った六冊の印象は以前と比べて変わったように思えます。とても貴重な体験でした。これから先も、誰かと本を語り合う機会を増やし、読書をより楽しくさせたいと思いました。
白熱した議論
湘南白百合学園高校 今野日菜美
選考委員それぞれに好きな本、そうでない本があるのに、一冊の本に決められるのだろうかと正直心配していたが、実際の選考会はとても和気藹々とした楽しいものだった。ほかの選考委員の方に自分が言葉にできなかった本の良さをうまく言い当てられて感動したり、この本のこういう点がいい、この本を読んでこう感じた、という言葉に共感したりと、大勢で本について語らう選考会ならではの体験ができたと思う。自分の好きな本が批判されているときは少し悲しく感じたが、そういう読み方もあるのか、と新しい発見にもなった。逆に、自分が、ほかの人が好きな本を批判したときは、とても申し訳なく感じた。やはり本を絞っていく段階では、どの本が好きか、という問題にぶつかったが、かえって議論が白熱し、最後に本が決まったときは達成感を覚えた。選考会のあと、改めて本を読み返してみると、最初に一人で読んだときよりも深く本を楽しめたように思う。選ばれた『ナイルパーチの女子会』はもちろん、今回読んだ全ての本の良さを、この選考会へ参加した思い出を交えつつ、周りの人に伝えていきたい。
「偏見」は捨てるもの
向上高等学校 藤井夏海
「高校生が実際に本を選考する」ということに、私はときめきを抱かずにはいられませんでした。
実を言うと、「高校生直木賞」は見学という形で参加の予定だったので、一体どんな熱い議論が繰り広げられるのだろうと、受動的に待っていただけでした。が、ここでハプニング発生。色々あって私が代表者として参加することに。この話を当日の朝聞いた私は、戸惑いと不安が最高点に達していました。何を話せばいいのか? 自分の意見が陳腐で笑われやしないか。心にもやがかかった気分でした。初めての参加――しかもこのような形で――だったので、恐れ多いながらも本選考会に臨みました。ですが、そのおかげで今の私は成長することができたと実感しています。
恥ずかしながら学校内で選考を実施していた時の私は、ただ6冊の本を読むとしか考えていませんでした。一方向に物事を考える傾向のある私は、「本を読了後、成る程こんな話だったのかと自分の中で納得し、そして次の本へ……」の繰り返しでした。
そんな惰性を爽快に打破してくれたのが、本を愛する高校生達の集いです。議論が始まり、ここで参加されている方々の着眼点に衝撃を受けました。全身の細胞が刺激され、活性化していくような思いでした。そしてそこには今か今かと意見をあげようとしている自分がいたのです。本は語り合うことで更に魅力を増すのだと再発見し、感激しました。
全国から読書愛好家が集まり、その中で幅広い意見が舞ったことは私にとても強い影響を与えました。私の中にあった「偏見」を壊してくれたのですから。中でも今回の受賞作である「ナイルパーチの女子会」には、やられたというべきでしょう。友情という重い鎖を繋がれた二人の女性が互いに苦しみの渦へ沈むという部分を如何に読むか。私は怖いという「偏見」の為にこの本の魅力を殺してしまっていました。ただ怖かったではなく、じゃあ自分達はどうなのか、と自問自答をする。そうすると本の深さが分かってくる。この考え方を教えてくれたのが「高校生直木賞」でした。
誰しも好みはあります。勿論、私にもあります。それでも、私は本に存在する「偏見」を一度洗い流して読書ができたら素晴らしいと選考会を思い返すたび思うのです。著者の皆様、高校生直木賞実行委員会の方々、そして参加された高校生の皆さん、充実した素敵な時間をありがとうございました。
高校生直木賞に参加して
静岡県立磐田南高等学校 藤田千尋
読書とは、「自分を外の世界へ連れ出し」、「自分の力」となるもの、私が高校生直木賞で掴んだことが、これです。
私は一人っ子の上、親が世に言う「転勤族」だったため転校が多く、常に「私の味方」と感じられるのは家族、そして「本」という存在でした。
今まで私は、本と自分は一対一のみの関係であり、内なる自分へ根を張るように深く深くつながっていくものだと考えていました。しかし、この高校生直木賞という活動を通して素晴らしいことを知りました。
今まで自分の中で解釈していた作者や登場人物への思いや疑問を口にすると、それに対して仲間から反応が返ってくる、なんと気持ちがよいことか。そしてこの気持ちよさを共有できる仲間がいることは本当にうれしいことだ、ということを知ったのです。
その上、自分の声で考えを発する機会を東京で得て、初対面の方々とも熱気の溢れる「語り合い」ができました。本に対する気持ちを共有できる仲間が全国にもたくさんいるという感動を味わいました。
私が推したのは「ナイルパーチの女子会」です。熱烈なトークバトルの中で、自分が考えたこともなかったような作品の良さや恐ろしさ、力強さを学びました。またこの本の魅力の一つである装丁について語り共感を得たときは、快感を覚えたほどです。
最後に、普通の高校生だった私に素晴らしい経験をさせてくださったすべての方に感謝します。私は本当に幸せ者です。そして、これからの高校生直木賞の活動でますます活気溢れるトークバトルが行われることを願っています。
高校生直木賞万歳!!
「高校生直木賞」に参加して
藤枝明誠高等学校 小長井友貴
参加すると決まってから、ハードカバーの厚い本を何度も何度も読んだ。今までの私は、好きな時に好きな本を好きなだけ読むという経験しかしてこなかったので、限られた中で追われるように読むというのは、初めてのことだった。
当日は緊張のため、うまく話せたとはいえないが、他の人の意見を聞いているだけで充分というほど多くの収穫があった。選考会の話し合いは、皆さすがと思えるほどしっかり読み込んできていたし、同じ本を読んでいても男女で視点が違うのも興味深かった。その中で私は、たった一冊の本に絞るということの難しさを知った。
これまで私は、本同士を比べることをしたことがない。「ビブリオバトル」に参加したことはあるが、それは自分の選んだ本のよさをひたすら述べるものだった。何冊もの中から一つを選び出すには、「この本のこういうところがいい」という支持の意見だけでは足りないのだな、という実感をもった。否定的な声、それも「この本のここがキライ」という感覚的な声も出てきてしまうのか、好きなところだけでは決められないのかと疑問に思うところもあった。
高校生直木賞に参加するまで、私は、嫌なものは嫌と避けてきた部分があった。「ナイルパーチの女子会」についても、学校の読書会では「ついていけない」という声が大半だったし、私自身もそんな思いで選考会に臨んだ。しかし、意見の応酬を聞いているうち、私のなかで大きく動くものがあった。気がついた時には「ナイルパーチ」への否定的な気持ちはなくなっていた。これは私にとって大きな驚きだった。
「嫌」が「好き」に変わる素晴らしさを知った今、否定の気持ちをそのままにしていてはもったいないと感じる。話し合いは続いていたが、最後はどの本になっても納得がいくと思うことができた。
今回のことが私にとってどのような意味を持つものか、まだはっきり私の中で整理できてはいない。しかし、高校生の私たちにこのような体験をさせてもらえたことは本当に感謝の気持ちとしか言いようがない。これからは、読んだことのない様々なジャンルに挑戦できるだろうと思うとワクワクしてくる。高校生直木賞、これが私の大きな財産になるだろうということだけはまちがいはない。