心を信じる
札幌南高等学校 川岸夕夏
高校生直木賞に関わった何ヶ月間で、私はある決意をした。物事をはかるものさしを、「役に立つか」から「面白いか」「心が惹かれるか」に変えたのだ。これは本に限らない。勉強、趣味、人間関係、すべて切りかえた。文字にすると一言だけれど、実際はうんと難しい。自分の心を一から見つめる。かといって、好きなことばかりするわけにはいかない。すべての事柄に対しフィルターをかけ直し、やる必要があるけれど心がついていかなければ、視点を変えたり関連性を探す。それでもうまくいかなければ切り捨てる。
その結果、周りの景色が色を増してくっきりとした輪郭を持ち、あたかも世界そのものが私に近づいてきたかのように感じている。なんとなく、生きやすい。
こんな大げさな話も、元をたどれば高校生直木賞につながる。選考中、いかに心が動かされたかということを第一に据えていた。勉強になるかどうかや、人に勧めるかという基準は無視した。それらを否定するつもりは無いし、多様な基準は一つの特徴であった。ただ私は、高校生の今だからこそ、掬える感情があると信じている。その期待が高校生直木賞をつくっただろうし、私も自信を持って選考に臨めた。
まだ無邪気に笑っていられる今は素直でいたい。大人から促されるあれこれもうまくかわして、私なりに取捨選択し、そして自由な読書をしたい。批判をしても誰にも怒られなかった、高校生直木賞に感謝している。
人はなぜ本を読むのか
市立函館高等学校 斎藤未来
人はなぜ本を読むのだろう。人はなぜ生きるのかにも似たこの命題を、私は第三回高校生直木賞選考会があったその日から考え続けている。というのも、選考会で出された様々な感想の中から、各々が本に求めているものの違いを感じたからである。ある人は本に癒しを求め、ある人は本に救いを求める。ある人は本にリアリティを求め、ある人は本に非現実を求める。そういった“求めるものの違い”が、本をこよなく愛する高校生だからこそ、発言に顕著に表れていたのだと思うのだ。
今回の選考会では“求めるものの違い”による意見の対立がしばしば見られた。同一の事柄であっても、見方によって真逆の評価がなされることもあった。しかし私たちはそれで終わることなく、両者の考えを比較し、擦り合わせ、納得できるまで互いの主張をぶつけあった。もちろん限られた時間内だったために議論しきれなかった部分もあったが、時間さえあれば私達は納得がいくまで話し合い続けただろう。きっと、いつまででも――。
最初は求めるものが違っていたとしても、相手が求めているものを自分の内側に引き寄せることで、新たな読書の意味、楽しみが生まれるのだと思う。人はなぜ本を読むのか、生きるのか――私はなぜ本を読むのか、生きるのか。その理由は多いほうが楽しいに決まっている。それを増やしていくためにも、誰かと本について語り続けて“生”きたいと、そう思うのだ。
いかに感覚で本を読んでいたか
岩手県立盛岡第四高等学校 土谷映里
今回の高校生直木賞は驚きの連続でした。一次選考から推していた「流」「若冲」が本選に残らなかったこと。校内ではリアリティがない、共感できないという意見で一致していた「ナイルパーチの女子会」が、多くの高校生の共感を得て、賞に決まったこと。学校ごとに○の本、×の本が全く違い、本当に感じ方は人それぞれだなあ、と新鮮でした。
普段はなかなか本について語るという機会はないため、一人で読書をする時、この本が好きだ、この本はつまらない、などと自分の中で結論を出すだけで「なぜ好きなのか」「なぜつまらないと思うのか」を深くまで考えることはして来ませんでした。今回の選考を通し、自分が普段からいかに感覚で本を読んでいるのかがわかりました。他校の方の論理的な意見には本当に頭が下がる思いでした。自分と同じ意見にはもちろん、全く逆の意見にも納得させられそうになるほどみなさんの言葉には力があったと思います。やはりそれが効いたのでしょう、結局私が推薦した本は賞には選ばれませんでした。接戦だったので、もう少し説得力のある話ができていたら……と、今でも少々心残りです。
もし候補作を違うかたちで読んだとしても、自分一人だけならここまで読みを深められなかったと思います。これきり一生会わないかもしれない方々とあそこまで本について語れたことは、かなり大きな経験になりました。貴重な機会を本当にありがとうございました。
「言葉」の重み
宮城県仙台第二高等学校 三島めぐみ
自分の感じたことをしっかりと伝えることができたのだろうか。東京からの帰り、選考会の熱気が冷めやまぬ中、私は考えていた。この数ヶ月間、何度も読み返し、話し合い、向き合ってきた作品たち。伝え残したことはなかったのだろうか。
すべての作品は、作者が己の思いや夢を読者に伝えるため、命を削って選び抜いた言葉でできている。それらをよく味わって本を読み、感じたことを話し合うことで、自分の気づかなかった見方や考え方を知ることができ、さらに「言葉」の重みを感じられるようになる。高校生直木賞に参加して実感したことだ。
全国大会の議論の中では、読める本か否か、好きな本か否かが論点の中心になる場面もあり、本の中の「言葉」がおざなりになっているような印象も受けた。また、作品に対しての辛辣な言葉に戸惑いも感じた。
しかし、それがまさに全国大会だったのだ。作品の読み方、感じ方、感じたことの表現の仕方は十人十色。どんなに厳しい言葉を使っても、そこには作品に対しての愛があったと思う。好きな場面、共感した言葉、もっと話したかったし、聞きたかった。四時間にも及ぶ選考会はほんの一瞬の出来事のように感じられた。
全国の高校生の皆さんと大好きな本について語り、分かち合えたこと、受賞作の著者である柚木麻子さんとお話できたこと。一生忘れられない思い出ができた。
これから先の長い人生の中で、私はどんな時も本と共に生きていくだろう。そう決意させてくれた高校生直木賞に心の底から感謝している。ありがとうございました。
視点の違い
都立青山高等学校 中島ももか
初めての高校生直木賞選考会ということと、全国から来た高校生と話し合うということで最初はとても緊張していました。初めて経験することばかりで、選考会が始まった時はどう発言したらいいのかも分からず、周りの高校生たちの意見を聴くばかりでしたが、選考会が進むにつれて緊張もほぐれていき、楽しみながら意見を言い合うことができました。
自分の高校で話し合った時にも様々な意見が飛び交いましたが、選考会に出席していた方々の意見を聴いていると本当に多様で、自分の高校では出てこなかったような視点での意見が沢山あって、とても面白かったです。具体的にいうと、同じ作品でも、女性目線の意見と男性目線の意見では考え方が異なっていることが多く、また学年が少し違うだけでも作品を読む視点が違ってくることはとても興味深く感じました。
一冊の本をめぐって、色々な方と意見を交わすという体験は、私の日常にはあまりないことでとても良い経験になりました。高校生直木賞本選考会に参加するという貴重な体験の場を与えていただき、どうもありがとうございました。