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富士山レーダー建設を担った新田次郎

富士山レーダー建設を担った新田次郎

文・写真:「文藝春秋」写真資料部

 明治四十五年(一九一二年)、長野県諏訪郡上諏訪町(現諏訪市)角間新田(かくましんでん)生まれ。小説家・新田次郎の名は、この生誕地と、次男であったことに由来する。本名・藤原寛人、その前半生は、中央気象台(気象庁)に勤める「気象学者」であった。

 無線電信講習所(現・電気通信大学)卒業、富士山測候所勤務、母島測候所建設の工事担当官などを経て、昭和十八年(一九四三年)「満州国観象台・高層気象課長」となる。この年に満州で生まれた次男が、藤原正彦氏(数学者、『国家の品格』の著者)である。

 満州がソ連に占領され、抑留生活を送る。一年後に帰国、復職するが、戦後の混乱のなか、収入は安定しなかった。そんな中、妻の藤原ていが引き揚げの苦労を書いた『流れる星は生きている』がベストセラーになり、家族の生活を助けた。この頃から、作家活動を考えるようになったという。

 白馬岳山頂に巨石を抱いて挑む男を描いた『強力伝』が評価を受け、昭和三十一年に直木賞を受賞。一方で、富士山気象レーダー建設責任者となり、その建設を成功させるなど、昭和四十一年の退職まで、気象庁の要職を歴任した。

 山脈に抱かれた土地に生まれ、富士山頂にも挑んだ人物である。「剱岳・点の記」など山を舞台にした作品が多く「山岳小説家」とも呼ばれた。しかし、そのテーマは山そのものより、人間が強い意思で夢に挑戦していく姿であり、本人は「武田信玄」、続編の「武田勝頼」といった歴史小説を本領と考えていた(諏訪は、これらの作品の重要な舞台でもある)。

 続編の「大久保長安」執筆中の昭和五十五年、六十七歳で死去。「武田信玄」がNHK大河ドラマの原作となったのは昭和六十三年のことであった。写真は、昭和五十一年撮影。

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山が見ていた
新田次郎

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