「白い部屋で誰かが誰かに『あなたの本当の人生は』と言われているイメージが、最初にぼんやりと浮かんできたんです。こんなに初めから言葉があるのなら、これをタイトルにして書こうと思ってスタートしました」
大島さんの新作は、古い屋敷を舞台に「書く」ことをめぐる3人の女を描いた物語だ。新人賞でデビューしたものの伸び悩んでいる若手作家・國崎真実は、憧れの老作家・森和木ホリー宅に内弟子として住み込むことになる。
「錦船」シリーズの大ヒットでジュニア小説の女王とも呼ばれるホリー。彼女の屋敷には、途絶えている「錦船」の続きが現れるという「ただただ真っ白な部屋」があり、「あなたの本当の人生はここにはない」とホリーに言われて公務員を辞めて以来、20年来彼女の秘書を務める宇城圭子がいた。
元々、設定や人物像をはっきりと決めずにまず書いていくという大島さん。1行書くたびに次の1行に出てくる言葉が浮かび、それを追いかけて紡いでいく。今作も、真実の筆跡を「ころころと独立した葡萄が並んでいるかのよう」とホリーが評すなど、ちりばめられた独特の表現が印象的だ。
「葡萄のような文字は変だと思い、一度は消したものの、やはりどうしても書きたくて復活させたんです。私にとって書くということはそうした欲望との戦いになる場合もありますね」
将来に不安を抱える真実、執筆から遠ざかったままのホリー、これが本当の人生かと悩む宇城。果たして、それぞれ納得のいく人生を見つけられるのだろうか。3人の間で自在に語り手が入れ替わり、物語は進んでゆく。
「読者に追いついてもらえるか心配だったのですが、語り手が変わる際にアイコンを入れるという意外にして簡単な方法によって解決しました」
また、物語の中盤では、真実の得意料理コロッケが重要な存在になるが(読後、コロッケを食べたくなること間違いなし!)、これも意図したものではなく、自身も展開を楽しんでいたという。
その一方、「書く」ことを描くことは、大島さん自身の作家人生を見つめるものでもあり、集中力や体力を要する作品でもあった。
「『書く』ことには絶えず向き合ってはいるんですが、身近にありすぎる。テーマとして作品にすることで改めて自分のなかを深い部分まで整理できた気がします。書き上げて、すっきりしました。私は死ぬまで書き続けるなということが明確になりましたね。一度は書かなくてはいけない作品だったと思っています」
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大島真寿美
おおしまますみ/1962年愛知県生まれ。92年「春の手品師」で文學界新人賞を受賞しデビュー。『チョコリエッタ』(来年1月映画公開予定)『ピエタ』ほか著書多数。
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