妊娠検査薬のさきっちょに尿をかけて、待つこと5分。
おお……。うっすら、うっすらだけど、縦に青むらさきの線がうかびあがってきた。おお……。ふたたび声にならない安堵というか興奮がこみあげてきて、首のあたりがものすごくどきどきした。
この2週間ほど、ずーっと体が熱くて生理予定日がきても高温のままだったのは、やっぱり妊娠だったのか。だるかったのも、妊娠だったのか。太ったのも、妊娠だったのか。小説がうまく書けなかったのも、部屋がいっこうに片づかないのも、服がどんどん増えていくのも、妊娠だったのか……いや、わたし妊娠したのか。すごいな基礎体温。体にもちゃんと摂理みたいなものがあって、それがくっきり目にみえた感じがした。
とはいえ、それはあくまで簡易検査の結果でしかないのであって、産婦人科へ行ってちゃんと妊娠しているかどうかを確認してもらわないといけない。あべちゃんと(夫です)激こみの産婦人科にでかけてゆき、じつに3時間じりじりと待ちつづけ、診察室にとおされると女性の初老のやさしい先生が「いるかなっ、いるかな〜っ」と言いながら、あちこち探してくれるのをモニターで、はらはらしながら一緒に確認すること数分。
「あっ! いたっ!」と先生が叫んだので、「どこですかっ!」と思わずわたしも叫んでしまった。
それはなんか、どこからどうみても黒い点というか、小さなまるでしかないのだけれど、「いますいます!」という先生のあかるい声をきいたその瞬間に、いきなりぶわっと涙がでてきてしまった。「おったですか!」と何度も言いながら、モニターをみつめてみると、もっと涙がでてきてこまった。命とか誕生とかそういうのじゃないんだけれど、なんか、これまで自分が知らなかった感情の、もっと知らなかった部分をどん! とつかれて、世界がぐらっとゆれて、やっぱりこれまで知らなかった場所に、ぽんとでたような、そんな感じがしたのだった。そしてそこがものすごくあかるい場所だった、ということに、とても驚いたのだとも思う。