片手が『何か』に乗っ取られたかのように勝手に動き、物を盗んだり、ひどいときには自分の顔を殴ったりする。そんな話を聞いたら、SFやホラーなど、フィクションの中の話だと思う方が多いのではないだろうか? しかし、そんな症状が生じる疾患が現実に存在している。
『エイリアンハンドシンドローム』や『他人の手症候群』と呼ばれるその疾患、それにかかったら、日々の生活がかなり不便になることは想像に難くない。しかし、もし片手に宿った『何か』、それが親しい人の魂だったとしたらどうだろうか?
今回より連載させていただく『レフトハンド・ブラザーフッド』は、左手に兄弟の魂が宿った高校生の少年の物語である。
いま思えば、十代の後半という時期は色々と馬鹿なことをやったものだ(べつに法に触れるようなことはしていないけれど)。子供から大人になる不安定な過渡期。社会に出て、様々な経験を積み、分別がつくことで失った何かを、その時期は胸に秘めていた気がする。
すでに三十代の後半になってしまった身だが、記憶をさらってあの時期の気持ちを思い出しつつ、主人公の少年が体験する奇妙で、恐ろしく、それでいて感動的なひと夏の、物語を描いていければと思っている。
「別冊文藝春秋 電子版11号」より連載開始
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