掃き溜めのような場所に宿る哀愁、僕が求めているものはそういうもの――東山彰良(前篇)

作家の書き出し

作家の書き出し

掃き溜めのような場所に宿る哀愁、僕が求めているものはそういうもの――東山彰良(前篇)

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

東山彰良「作家の書き出し」

神様に背中を押されてできた話

――さて、第1話の「黒い白猫」は、ニン姐さんの店に棲みついている「小白」という名前の黒猫をめぐる話で展開しつつ、紋身街の人間模様が伝わる話になっていますよね。次の「神様が行方不明」は土地公廟から逃げだした神様を連れ戻すよう、チンピラが探偵に依頼するというユニークな話で。

東山 最初から6篇の内容を考えていたわけではなくて、出たとこ勝負で考えていきました。「神様が行方不明」は、台湾の作家の甘耀明さんの『神秘列車』という作品集の中に、やっぱりフラフラ出かけて行っちゃう神様の話があるんです。それが面白くて父親や周りの人にその話をしたら、昔からよく言われていることなんだと言われて。それで、自分なりのやり方で書いてみました。

――『神秘列車』の「伯公、妾を娶る」は地方の村の話でしたよね。でも、台北の街中にも廟がいっぱいありますよね。

東山 道教の神様もいるし、仏教の神様もいるし、陽廟や陰廟というものもあります。タイではエラワンと呼ばれている、四面佛を勧請しているところもあって、いろんな神様の、いろんな都市伝説があるんです。だから、作中に書いた僕の想像の部分も、そういうことがあっても不思議じゃない、台湾の人が読んでも違和感がないんじゃないかと思います。

――主人公が学校の先生の意外な一面を見る「骨の詩」では、日本軍の歴史やもともと台湾に住んでいた民族のことが出てきますね。

東山 うちの父親と母親の母校が台中にある東海大学なんですけれど、何年か前にそこで講演をした時に仲良くなった先生が、台湾の原住民のセデック族の本をくれたんです。僕にとって都合のいいことに中国語版だけでなく日本語版もあって、それを読みました。原住民の友達がいるわけではないので、その本や映画から得た知識をもとに想像しました。

――日本の統治時代に、セデック族による抗日蜂起事件があったんですね。

東山 作中に書いた霧社事件と第二次霧社事件は本当にあって、それがどうやって起こったかは諸説あるんですよ。「日本人がセデック族の男を殴った」とか「日頃から差別があった」とか。幸いなことに僕の父親が民俗学に詳しいので、たくさん話を聞きました。たとえば、当時、台湾にはいいヒノキがあると言って日本人がいっぱい伐った。明治神宮の鳥居も台湾ヒノキを使っているんですけれど、原住民の人たちにとっては御先祖の魂が帰ってくる場所の木をバンバン伐られたことになる。日本人からすると、木を伐ったくらいで相手を侮辱したことになるとは考えていなかった、とか。自分たちの部族にとっては御馳走だと思って出したのに、日本人がバカにした、とか。そういった、蓄積されていくものがあったんでしょうね。表向きの理由は、原住民を日本人が搾取して賃金を払わなかったからとなっているけれど、それだけじゃないと学んだので、そういうこともちょっと反映させたかったんです。

小さな場所東山彰良

定価:本体1,500円+税発売日:2019年11月14日