掃き溜めのような場所に宿る哀愁、僕が求めているものはそういうもの――東山彰良(前篇)

作家の書き出し

作家の書き出し

掃き溜めのような場所に宿る哀愁、僕が求めているものはそういうもの――東山彰良(前篇)

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

東山彰良「作家の書き出し」

残念な日々に感じる哀愁やノスタルジー

――ちなみにナイポールは故郷を出て、その後祖国には帰らなかった。しかも第三世界を批判するような発言をしている。あの童話は、それに対するひとつのアンサーのようにも思えたんです。

東山 いやいや、ナイポールに対して何か物申すみたいな気持ちはなかったです(笑)。昔、ジャメイカ・キンケイドの『小さな場所』という小説を読んで、タイトルが好きだったんですよね。いつか自分も「小さな場所」というタイトルにふさわしい小説を書いてみたいなと思っていました。自分のいる小さな場所って、クローズアップで見ている時は悪いことだらけだけれど、引いてみるとノスタルジックに感じることはある気がします。ベルギーの作家のディミトリ・フェルフルストの『残念な日々』も、男の子が酒飲みでケンカばかりしているおじさんたちと同居している話で、その子はそこから抜け出したくてしょうがない。でも抜け出してみると、あの残念な日々に哀愁やノスタルジーを感じるという。「小さな場所」という言葉から僕が連想するのは、そういうイメージです。

――外に行きたいと思っても、抜け出した場所もまたひとつの小さな場所にすぎないし。

東山 まさにそれを、子どもの作文で表現したかったんです。クジラでさえ小さな場所にいるんだと。

――それは東山さんご自身が、自分がどこに住むか、どこにいるかを意識されてきたからなのかなと思います。

東山 そうかもしれないですね。居場所がない感じというのは常に持っています。どこに住もうと、別の場所に常に憧れている。別の場所へ行っても、また同じ繰り返しなんだろうと分かっているけれど、行かずにはいられない、みたいな。

――ところで、本作は臨場感がありつつ、後日譚も語られたりして、実は回想という形をとっていますね。

東山 主人公がある程度大人になって振り返っている形です。A地点からB地点に向かって時間が流れていくのではなく、もっと時間を自由に飛び越えるように書きたかったんですよね。その時見えなかったけれど10年後には見えていることもあるだろうし。

 なので1篇くらいは、たとえば主人公が大学生になった時の話でも書こうかなと思ったんですけれど、それは何か違う気がしてやめました。回想なんだけれども、過去を冷静に見ているんじゃなくて、主人公が渦中にいるようにしたかったんでしょうね。それは今考えて出てきた答えで、書いている時は本当に感覚的なものだったと思います。

――本作は台湾と同時発売とおうかがいしました。日本語版では漢字のルビを向こうの発音にしていたりして、そのバランスがすごくよくて。台湾版は翻訳者が訳されていると思いますが、表現について工夫はあるのかなと。

東山 日本の読者に対しては、こういうルビの使い方をすると非日常的な感じ、舞台は日本ではないんだという感じが伝わるなと思っていました。

 僕は中国語や台湾訛りは分かるんですが、台湾語に関しては、台湾語を喋っているとは分かるけれど理解はできない。台湾語って文字がないんです。たとえば選挙の時、会場でみんなが中国語で「凍ったニンニク」と書かれたプラカードを持っていたんです。その発音が、台湾語の「当選」という言葉の発音と同じなんです。台湾の訳者さんはそのあたりが分かっているので、お任せしています。だから、翻訳版のほうが、現地人しか分からないようなファンキーなグルーヴ感が出ているかもしれないです。


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小さな場所東山彰良

定価:本体1,500円+税発売日:2019年11月14日