刺青のハードルは日本より台湾の方が低いです
――ナイポールの『ミゲル・ストリート』も、本人の少年時代を描いた自伝的要素があって、子どもが視点人物で、いろんな大人が出てきますよね。
東山 みんなあの通りから出ていきたくて奮闘しているんですよね。ミゲル・ストリートで一番いい仕事はゴミ収集カートの運転手。印象深かったのが、すごく頭のいい男の子が医者を目指して勉強するけれど試験に失敗する。他の試験を受けても失敗して、結局ゴミ収集カートの運転手になって、ストリートの“貴族”になる話。あの話が一番好きかもしれない。
それと、みんなにリスペクトされている兄貴分みたいな人もいましたよね。アウトローだとほのめかされているけど、実際にはそんなに怖いことはしないのが彼の魅力で。それで紋身街でタピオカミルクティーの屋台をやっている阿華という人物を考えつきました。
――紋身街には馴染みがあったのですか。
東山 僕が住んでいた廣州街から歩いて30分くらいのところにあります。紋身街がある西門町はうちの近くの一番大きな繁華街で、子どもの頃はよくそこらへんで遊んでいました。
むかしの紋身街は薄汚い通りという印象があったけれど、今年行ったらわりときれいになっていて。もちろん主人公の家の食堂は架空の店ですけれど、紋身街を歩いてみると、「このへんに食堂があってもおかしくないな」とか、「ここにタピオカミルクティーの屋台があってもおかしくないな」と思いました。作中の某刺青ショップは2階にある設定ですが、1階は洋服屋やピアス店をはじめは想像していました。実際に行くとフィギュアショップとかもあって、後から店を書き換えたり。
余談ですが、ものを書いている時に、神様に背中を押されるような感覚を覚えることがあります。今回は、これを書いている頃に台湾に帰ったらうちの従妹が彫り師になっていました(笑)。彫り師のニン姐さんはその従妹のことを思いながら書きました。
――台北では刺青ってかなりメジャーなんですか。
東山 高校生でも入れていたりするから日本よりも一段ハードルが低いと思います。原住民の人たちのトライバル的な刺青なんかもあって、いろんな刺青が共存しているような気がします。僕も若い頃は憧れみたいなものはありました。アウトローに憧れる時期があって。で、自分が入れるならどんなものがいいだろうかと図案を描いてみたりもしていましたね。