――「あとは跳ぶだけ」は、あることを機に、すごく太ってしまった人の話です。
東山 すごく太った人がダイエットに成功したら、皮がたるんでそれも取らなきゃいけないというのをテレビなどで見て。刺青があったら刺青ごと取れちゃうな、ということからの発想です。次の「天使と氷砂糖」は単純に、刺青が身体の上を動いたら面白いだろうなという発想から、物語を組み立てていきました。
――ああ、だから「天使と氷砂糖」はちょっとマジックリアリズムの匂いがある。
東山 そういうものが好きなんでしょうね。あと、この話に、お酒を飲んで「ビールあと二本」「もう二本」と言って飲み続けて「王二本」とあだ名をつけられた人物が出てきますが、あれはうちの父親の若い頃のあだ名です(笑)。
――最後の1篇が表題作です。主人公が友達と仲たがいして、でもある事件が起きて……。いきなり物騒な事件が起きますね。
東山 あれも実際に両親と酒を飲んで雑談をしている時に、そういう話が出たんです。「あそこのおばあさん、こないだ……」って。「えーっ」と思って印象深かったので、いつか使おうと思っていました。
この話では、主人公が蛙の童話を書きますよね。あれ、僕が30年くらい前、東京でサラリーマンをやっていた頃に書いた1篇をリライトしたものです。「ちょうど使えるな」と思って。
――そうなんですか! 井戸の中にいた蛙が、落ちてきたコオロギにここはちっぽけな場所だと言われ、広い世界を見るために旅に出る。この話にぴったりな内容じゃないですか。
東山 そう、だからこれも、神様に背中を押された感じがありました。