4月29日、全国36校の高校生たちが一堂に結集するはずだった「第7回高校生直木賞」全国大会は、新型コロナウイルスの感染拡大のため、延期を余儀なくされた。以来、高校生たちは自宅にこもって候補作を読み、オンラインで友人と議論をつづけている。雌伏の時を過ごしている若者たちへ――。「第7回高校生直木賞」候補作家5人が、自分たちの高校時代をふりかえって「読書体験」を綴る、連続企画の第2弾!
私が高校生だったまさにあの時に、今回と同じような未知のウィルスの襲来を受けて緊急事態宣言によって延々家にいることになっていたらどうだったろう?
2月末からそんな状態がつづいているわけだから、4月から始まるはずだった新しい学年の、新しいクラスはどんなクラスなんだろう、やりやすいメンツのクラスだろうか、とまずはそちらが気になり、しかしおそらく、すぐに、まあ、どうでもいいや、今考えてたってしょうがないし、となり、宿題とか自習とか、そういうものは、ただもうひたすらやってるフリだけして一切やらず、受験とか差し迫った現実があったとしても、たいへんそうな顔だけして、なるべくごろごろと(親にうるさくいわれないよう、知恵を絞り、時には戦い)、本や漫画を読んで暮らしていたと思われます。むしろ、私にとっては、え、学校行かなくていいの、そりゃラッキー! くらいの感じだっただろうなあ。
私はあんまり、学校が好きではなかった。とにかく面倒だった。がんばって通ってましたが。
ほんと、学校生活って、がんばらなければつづけられなかったんです。けっこう苦しくて、もうここで終わりにしたい、と何度思ったことか。それはもう、小学校の頃からずっとそうで、本や漫画があったからこそ、どうにかつづけられたんだ、と大人になってから気づきました。
本や漫画は娯楽でいいと思います。
高校生の私には娯楽でした。遊びでした。そして喜びでした。
なので自分が喜ぶもの、うれしいものをどんどん読みつづけていけばいいと私は思います。
読みつづけていくとだんだん好みも変化していくし、興味の対象も広がっていくし、そういう流れに乗って読んでいくと、その時、自分に必要なものがちゃんとやってくるように思います。
はっ!
と何かが“開く”瞬間が訪れるのは、ほんとに楽しいことです。難易度の高いものが読みたくなったり歯ごたえのあるものを欲するようになったり、フィクションではなくノンフィクションを読みたくなったり、日本のものだけではなく、外に目がいくようになったり、自分でも思ってもみなかったところへ手が伸びる。
その手を信じて、うんとうんと手を伸ばして、好きなものをどんどん増やして、たくさん楽しめばいいんです。心の底から楽しいこと、楽しいもの、好きなもの、そういうものを持ってると、生きる力になります。(私はそうでした)
あんがい強い力です。
おおしまますみ 1962年愛知県生まれ。92年「春の手品師」で文學界新人賞を受賞しデビュー。2011年刊行の『ピエタ』は第9回本屋大賞第3位。『あなたの本当の人生は』は第152回直木賞の候補作に。『チョコリエッタ』(映画化)『虹色天気雨』『ビターシュガー』(両作品をもとにNHKでドラマ化)『戦友の恋』『ゼラニウムの庭』『ツタよ、ツタ』『モモコとうさぎ』など著書多数。19年刊行の『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』が第161回直木賞を受賞した。
※第7回高校生直木賞の候補作は、下記の5作です。
朝倉かすみ『平場の月』(光文社)/大島真寿美『渦』(文藝春秋)/小川哲『嘘と正典』(早川書房)/川越宗一『熱源』(文藝春秋)/窪美澄『トリニティ』(新潮社)
賞の詳細は、高校生直木賞HPをご覧ください。