――事前にプランを立てなくてもちゃんとその枚数で適切な話を書けるのはどうしてでしょうか。
桜木 枚数が連れてくる話があるってことを、デビュー前に教わりました。『家族じまい』がもし一篇50枚だったら、角度も少し違っていたと思う。でも今回は、たとえば智代の章だったら、ちゃんと実家に行かなきゃいけないし、実家から帰ってこなきゃいけないから、私の文章だと80枚要る。それでこのサイズが決まった感じです。
――最近でも桜木さんは連作から長篇まで、さまざまな長さの小説を書いていますよね。小説を書く人を主人公にした『砂上』、ある夫婦と周囲のささやかな日常を描く『ふたりぐらし』、沖縄を舞台にした『光まで5分』、カルーセル麻紀さんの少女時代を小説にした『緋の河』など題材もさまざまで、毎回いろんな挑戦をされている。
桜木 一冊ずつ、挑戦は続けなきゃと思っています。『光まで5分』は花村さんに「北海道から離れてごらん」と言われてとり組んでみたんですよね。あの挑戦で分かったのは、10年単位で気象の分からない場所を書く難しさと、人間ばかり書いても小説にならないということ。新人だった頃には「景色だけ書いても小説にならない」とさんざん言われましたが、景色と気象が分からないと人間ばかり書くことになって、それはそれで駄目なんだと学びました。
――今は「小説新潮」に『緋の河 第二部』を連載中ですね。他に言える範囲でよいので、今後のご予定は。
桜木 『緋の河 第二部』は前作とタイトルも主人公も同じなんですけれど、評伝ではないですし、別の時期の話なので、角度の違うものになっています。書いていてすごく勉強になるし、元気になります。
今「野性時代」で連載しているのは『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』という長いタイトルのもの。大竹まことさんの「ゴールデンラジオ」に出た時に、大竹さんが「年末年始のくそ寒い釧路に営業に行ったことがある、俺と師匠とブルーボーイとストリッパーの4人で」って仰って、思わず生放送中に「そのタイトルもらっていいですか」って聞いて、昭和50年代の話を書きました(笑)。大竹さんご本人の話に寄らないように、あえて大竹さんの本を読んでから、違う設定を考えました。これも好きな話なんです。それと、『ブルース』がもんでんあきこさんの絵でコミカライズされて7月に上巻が出たところなんですが、その後の話も書いています。映画『ホテルローヤル』の公開も決まって、この冬にはひと区切りつく予定です。
さくらぎ・しの 1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」でオール讀物新人賞を受賞。07年に同作を収録した単行本『氷平線』を刊行。13年『ラブレス』で島清恋愛文学賞を受賞。同年『ホテルローヤル』で第149回直木賞を受賞し、ベストセラーとなる。『起終点駅 ターミナル』『無垢の領域』『蛇行する月』『星々たち』『裸の華』『ふたりぐらし』『緋の河』など著書多数。