大人がハマるファンタジー「八咫烏シリーズ」が特別なわけ

作家の書き出し

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大人がハマるファンタジー「八咫烏シリーズ」が特別なわけ

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

阿部智里インタビュー(前編)

【八咫烏シリーズとは】

日本神話にも登場する三本足の伝説の烏、八咫烏。本作「八咫烏シリーズ」は、人間の姿に変身することが出来る彼らの一族が、異世界・山内を縦横無尽に飛びまわる異世界ファンタジーだ。史上最年少の20歳での松本清張賞受賞となったデビュー作『烏に単は似合わない』にはじまり、最終『弥栄の烏』までの全6巻で第1部が完結。平安王朝風のみやびな風俗と、日嗣の皇子・若宮と側仕えの少年・雪哉を中心とした魅力的なキャラクターたち、周到に仕掛けられた謎、天敵・大猿とのバトルなど、日本神話に通じる壮大な世界観が話題を呼び、大ヒットとなった。2020年9月、満を持した3年ぶりの書き下ろし『楽園の烏』で第2部がスタートする。


なぜ第2部開幕までに3年かかったのか

――いよいよ八咫烏シリーズ最新刊『楽園の烏』が刊行され、第2部が幕開けしましたね。第1部の終了から3年待たされました(笑)。その間にシリーズ外伝の『烏百花 蛍の章』やノンシリーズの『発現』の刊行があったわけですが。

阿部 3年もお待たせして本当に申し訳ないという気持ちしかありません。私もまさかこんなに間が空くとは思っていなかったので、気づいた時にはぎょっとしました。

――待った甲斐のある面白さでした。第1部で何があったかも作中で触れられているので、久々に読んだ人もいろいろ思い出せますし。

阿部 たぶん、めちゃくちゃコアなファンの方を除いて、普通の読者さんはそこまで憶えていないと思ったので、第1部を読み返さなくても読めるものにしようと思っていました。極言しますと、1部を知らない人でも読めるくらい面白いものにしようと意識しました。実はなぜこんなに長くかかったかというと、1回プロットをセルフボツにした経緯がありまして。

――セルフボツ(笑)。

阿部 その大きな理由というのが、やはり、この第2部から読めるかどうかでした。何年も前のノートに「2部を書き始める前に読むこと」という自分からの注意事項が書かれてあって。「1部を読まないと成立しないような話になってませんか? 2部に入るなら、それは単体で読めるようにしてください。これは過去の私からの客観的な意見です」って。案の定、最初に書いたものは第1部を読まないと成立しない話になっていたので、これは駄目だなと思ったんです。

――『楽園の烏』の冒頭は、これまで舞台となってきた異世界「山内」ではなく現代の日本ですよね。資産家の養父から山を相続した男、はじめが視点人物で、彼が何者かに連れ去られ、気づけば山内にたどり着く。山内を何も知らないはじめの視点で描かれるから、新たな読者も同調できる。その後で、視点人物が切り替わっていくわけですが。

阿部 どういうふうに情報を開示して読者さんを導くかを考えた時、ある意味ガイド役の視点が必要だったんですね。それで大量にいるキャラクターから、どの場面をどの人の視点で見せたら楽しくなるだろうかを考えながら、一人一人オーディションを行っていった感覚です。

別冊文藝春秋 電子版34号(2020年11月号)文藝春秋・編

発売日:2020年10月20日

楽園の烏阿部智里

定価:本体1,500円+税発売日:2020年09月03日