昭和、平成、令和――時を超え、託された真相のために男は走る。初の大河小説を書き上げたいま思うこと

作家の書き出し

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昭和、平成、令和――時を超え、託された真相のために男は走る。初の大河小説を書き上げたいま思うこと

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

呉勝浩インタビュー

――トリッキーな設定がなくても面白いものを書こうとする時、何を意識していますか。

 もしプロット段階で面白い設定が書けるんだったらそうしたい。そのほうがいいと思う。でも、僕には、読む側に感情の波風を立てたいという思いがある。そして、嫌な波風を立てる方向で物語を閉じる話、それをメインテーマにした話にはしたくないんです。「おぞましかったね」とか「気持ち悪かったね」というところに主軸がある物語を書くことは、自分はあまり得意でない気がする。僕の作品の登場人物も、葛藤したり、ネガティブな気持ちによってドラマを動かしたりするんですが、それでも最終的に行きつく場所は、ある種のポジティブさを感じられるところであってほしいんです。さもなければ、味わったことのないような新しい感情や世界を見せたい。もちろんエンタメに振り切って、主人公がレクター博士みたいな奴にこてんぱんにやられて絶望エンド、みたいなものも読みたいし書きたいですけれど、そういうことをやるんだったら相当に工夫しようぜ、と思う。読者の感情の波立たせ方はずっと模索しているのですが、いたずらに過激なことをするのではなく、難しくても工夫しつくされたものにしたいんです。もちろん大前提としてエンタメであるということを踏まえながら、どうするべきかということは、たぶんこの先も永遠に考え続けるんだと思います。

――ただ、どう感情を波立たせるかを最初から考えて書き始めるわけではない。だからこそ、呉さん自身が日頃思っていること、感じていることが作品に現れてくるんでしょうか。

 それはあるかもしれないですね。変にプロットを立てて、そこに合わせていこうとするとうまくいかないことが多いし。部分部分では辻褄を合わせることもありますが、大きな流れでいえば、ある出来事に直面した主人公にどんな感情が生じるか、その感情をフックにして物語がどう転んでいくかを練り上げていくわけです。この感情とストーリーの連動がオリジナリティの見せ場というか、まさに勝負どころ。僕がプロットを立てられないのも、その人物にとってどんな出来事や感情が一番重要で、その結果どう行動するのか、その場面を書いてみないと分からないからなんですよ。意外と何気ない台詞がキーになったり、思ってもみない発想が浮かんだりするんです。効率の悪い書き方ですが。

――書き直しもものすごくされるとか。

 今回も本当に多かった。でも、書き直しには限界があるので、最近はどちらかというと執筆の速度を落としていますね。毎度立ち止まって、どちらに行くか、その方向を決めることに時間をかけています。

――マルチタスクができないとのことでしたが、次の作品の構想は責了してから考えるのですか。

 いや、さすがにそれだと埒が明かないので、書いている間に次のものをぼんやり考えておいて、入稿してゲラを待つ間に次の話を書き出したりします。本当は再校ゲラくらいの時に次作を書き出せたらいいペースで回っていくんでしょうけど、なかなかそうもいかない(笑)。

――では、次の展望は。

 次はもうちょっとエンタメに振った作品をやりたいと思っています。ただ、そうなると、コロナをどう扱うのかという問題が立ちはだかる。先日、逆に一回コロナをがっつり題材にしようと思って短篇を書いたんですけれど、毎回その人物がマスクをしているかどうかみたいなところから描写しなくちゃいけなくて、面倒くさかった(笑)。こうした世の中の変化にどう対応していくのか、物書きにとってはやっかいな問題です。ただまあ、悩むばかりじゃ疲れるので、なるべく腐らず、気を張りすぎず、しぶとくやっていこうと思っています。


ご・かつひろ 一九八一年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。二〇一五年『道徳の時間』で第六一回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。一八年『白い衝動』で第二〇回大藪春彦賞受賞。二〇年『スワン』で第四一回吉川英治文学新人賞、第七三回日本推理作家協会賞受賞、第一六二回直木三十五賞候補。他の著書に『ライオン・ブルー』『マトリョーシカ・ブラッド』『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』など。

おれたちの歌をうたえ呉勝浩

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