高校時代にこんな本を読んできた/逢坂冬馬

高校生直木賞

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高校時代にこんな本を読んできた/逢坂冬馬

文: 逢坂 冬馬

第9回高校生直木賞候補者たちによる青春時代の読書の旅

第9回高校生直木賞候補作 逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)

焦ることなく、自分のペースで

この寄稿、一度はお断りしようと思いました。というのも、私は高校生時代に本をあまり読んでいなかったからです。フィクションは専ら映画で摂取していました。片や文字は新聞で済ませていて、本はといえば、せいぜい岩波ジュニア新書で面白そうと思った本を数冊読んだ程度でしょうか。当時は自分がやがて小説家になり、高校生の皆さんに読書体験を語る日が来るなどとは夢にも思っておりませんでした。

しかしそんな私にも文学に触れる貴重な機会がありました。現代国語の授業です。中島敦の『山月記』はその端麗な美文と痛切な悲哀が永遠に自分の記憶に残る作品となりましたし、今でも前半が暗唱できます。夏目漱石の『こころ』に描かれた真に迫る内面描写は、読者としての私の「こころ」にも痛みを伴う情動を与えてくれました。

その一方で、歴史的文豪の作品に「……なんだよこれ」と反発を抱いたこともあり、紛れもなくこれらは文学体験と呼ぶべきものでした。

私が本をきちんと読むようになったのは、大学に入って論文やレポートを書くようになってから。自らの知見が拡がることが楽しくて、夢中になって色々読みました。それでも最初に読んでいたのは学術書やノンフィクションの本ばかりで、小説を読むようになったのはさらに数年後です。文学青年とはほど遠い私が結果的に小説家になれたのは、映画、報道、学術といった分野で広く世に関心を持つことで、アンテナのような「感度」を維持していたから、そしてわずかな文学との出会いとそこで得た感触を忘れずにいたからです。

学業や部活、人間関係と多くの事柄に時間を割かれる高校生時代、自分の読書の量が足りないと焦っている方もいるのではないでしょうか。ですが読書体験として重要なのは、数やスピードではなく、その時折に好きな作品に触れ、その際に得た「感触」を大切にすることであると私は考えます。
焦らずに、自分が楽しめると思えるペースで、好きな本を読むことをお薦めします。


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