2014年に始まった本賞も、今年で9回目を迎えた。新型コロナの影響で全面オンラインでの開催となったが、高校生たちの読書への情熱は一瞬にして“距離”を超える。北海道から鹿児島まで、これまでで最多の全国38校が参加し、“自分たちの1作”を決めるべく議論を戦わせた。
候補作は、第165回、第166回直木賞候補作の中から選ばれた充実の6作品。
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』
一穂ミチ『スモールワールズ』
今村翔吾『塞王の楯』
佐藤究『テスカトリポカ』
澤田瞳子『星落ちて、なお』
米澤穂信『黒牢城』
ここでは高校生たちの熱い議論のごく一部を紹介する。
まずは予選。各校の代表がABCの3班に分かれ、それぞれの学校での議論を基に、各候補作について話しあっていく。
澤田瞳子『星落ちて、なお』
A 河鍋暁斎の娘の生涯を描いた歴史ものだけど、読みやすかった。
B それは現代の自分たちに共感できる部分が多くあるからじゃないかな?
C 暁斎の娘も絵師で、いわば働く女性の姿が描かれているよね。女性の立場が弱い時代、さまざまな制約の中でポジティブに生きるのは、今よりよほど大変だったと思う。
D 女性が生きづらかっただろう時代に、懸命に生きる様子は、上品で、無垢で、可愛らしくて、清らかで、真っすぐで、それでいて美しい! 思わず応援したくなりました。
E 女性としての幸せをとるのか、絵師としての人生を進むのか。父に縛られて普通に生きられなかった後悔と、それでも父に認められたかった、父を超えたかった、というもどかしさの両方がヒリヒリと伝わってきて、読んでいて、もう悔しくて悔しくて……。主人公の気持ちを考えると、辛かった。
F たしかにそうだね。父を父として見るか師匠として見るかに迷う部分が切なくてよかった。
G 偉大過ぎる父を持つことの苦悩が描かれているよね。父を“憎みながらも愛する”矛盾がうまく描かれているし、父亡きあとに、父を忘れていく人々と父を忘れることができない自分との間のズレに苦しんでいるようにも思えました。
H 「縁」という言葉が似あう作品だなあと感じました。人と人、人と絵との縁を考えさせられる。
I ちょっと視点が違うけど、風景描写が独特だと思いました。悲しい感情のときに、気持ちとは裏腹に明るい天気を描いているところにむしろ共感できるというか……。
J 絵を描くシーンの描写もよくて、文字の表現だけでもどんな絵を描いたのか、ありありと目の前に浮かんでくるようでした。
K 映像化できそうですよね。朝ドラに向いていると思った。
L 朝からでも胃に優しい作品だね(笑)。
M でもテーマは重いよ。今までよいと評価されてきたものが、時代が変わるにつれて廃れていってしまう時の流れの残酷さを感じる。時代の変化に抗って真の美を探す人の苦悩が主題になっていると思う。
N いつの時代も好きなものを好きでいていい。自分にしかできないことがあると思って生きていいのだと励まされました。
米澤穂信『黒牢城』
A 乱世を生き抜く人を描く時代劇としても、渦巻く謎が少しずつ明かされていく推理小説としても、完成度が高いと思いました。
B 歴史と組み合わされた、新感覚のミステリーじゃないかな。
C 犯人の行動が歴史ものならではの動機によるものだけど、必ずしも歴史の知識がなくても楽しめた。
D 荒木村重に捕まった黒田官兵衛が探偵になる。この設定がおもしろいよ。
E 官兵衛の不気味な笑い、挑発、場面ごとの天候の変化、こうしたさまざまな要素が一本に繋がって、登場人物の運命を暗示していた気がする。
F この登場人物たちの運命はどこまでもやるせないですよね……。
G 荒木村重が籠城する城内であんな事件が起こるなんて! 閉鎖空間という設定が、最後の解決に向けての盛りあがり効果を高めていると思いました。
H 脇役になりがちな荒木村重について深く知ることができてよかったけれど、どこまでが史実なのかが気になりました。学校ではほとんど習わないよね。
I 家来たちと自分を繋ぎとめるものがないことに苦悩し、戦国武将としてのプライドに固執する荒木村重の心情表現に圧倒されたなあ。
J ミステリーでありながらも、人の心の動きによく触れていて読み応えがあった。
K 民衆は死を恐れたのではなく「死をもってすら、この苦しみが終わらぬことを恐れたのでございます」という言葉が一番胸に響きました。
L わからなくても面白いけど、歴史の予備知識があればもっと楽しめたかな。今後、何度も繰り返し読んでいける小説だと思います。
M 見ごたえのある場面がたくさんあり、この作品もぜひ映像化してほしい。