発売即重版&「王様のブランチ」で話題沸騰! 『愛されてんだと自覚しな』著者・河野裕インタビュー

作家の書き出し

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発売即重版&「王様のブランチ」で話題沸騰! 『愛されてんだと自覚しな』著者・河野裕インタビュー

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

▼書店員さんからの熱い感想はこちら

「とんでもない傑作」「惹き込まれて一気読み!」など、熱い感想が続々! 河野裕さんによる最高にポップなモダン・ファンタジー『愛されてんだと自覚しな』に全国の書店員さんから絶賛の声!

千年分の記憶をもって、今世を生きる

——新作『愛されてんだと自覚しな』、もう本当に胸がときめくお話でした。あまりに面白くて、思わず二回読みました。

河野 ああ、よかったです。物語全体に大きな「仕掛け」を用意したこの作品を、どう楽しんでいただけるかなとドキドキしていたので、そう仰っていただけてほっとしました。

——初読と再読ではぜんぜん読み心地が違うんですが、どちらも最高に楽しかったです。

河野 ありがたいですね。なにしろ今回は、難しいことは考えずに、読んでいる間ひたすら楽しく幸せな気持ちになってもらえるような一冊を目指したので。

 私はこれまで、メッセージ性を強く打ち出した小説を好んで書いてきました。でもいろいろとキツいことも多い日々の中で、純粋に楽しい物語を読みたい気持ちが強くなっていました。本作の準備を進めていたころ、自分の本棚を見渡してみると、気楽に読めてただ楽しいだけの本はほんの数冊しかみつからなかったんです。じゃあ自分が今本気で求めている小説を素直に書いてみようと。私にとって大切な人たちが純粋に笑って読めるような物語を書きたくて、そこで浮かんだのがこの作品のタイトル「愛されてんだと自覚しな」でした。ストーリーも何もない状態でこの言葉がひらめいたとき、小説のラストシーンも同時に見えた……という。

——なんと、あのぐっとくるシーンが最初にあったのですか。今回は、輪廻転生のお話ですよね。千年前、〝水神みずがみ〟を袖にして怒りを買った人間の女とその恋人が川で命を落とす。水神に呪われた二人はその後、何度も生まれ変わっては出会いと別れを繰り返していきます。そして今世こんせの生まれ変わり、岡田おかだあんは現在二十三歳、神戸で守橋もりはし祥子しょうこという友人と平穏に暮らしています。ところがある日、封印されていた水神が顕現して……というところから物語が始まります。

河野 今、現実世界では暗い話題がたくさんありますが、長い歴史を振り返れば、人間はいろんな困難を乗り越えてきている。「千年」というスパンで見てみたら、悲劇的なこともからっと書けるんじゃないか、という発想です。

——水神の輪廻転生の呪いにはルールがありますね。〈男は生まれ変わるたびに輪廻を忘れ、しかし女の生まれ変わりを愛したとたんにそれを思い出す。女は逆さで、輪廻を覚えたまま生まれ変わり、しかし男の生まれ変わりを愛したとたんにそれを忘れる〉。これがもう、絶妙でした。こんなルールがあったら、運命の人と再会できたって絶対結ばれないじゃないですか。

河野 タイトルが浮かび登場人物たちが生まれ、ある程度構成が固まってきたら、自然とこのルールが浮かんだんですよね。「ああ、これでようやく書き始められる」と思いました。

 

——杏は非常に真面目で穏やかな性格。今の生活に満足していて、〈恋だとか愛だとか、そういうのはもう、充分ですから〉と思っている。彼女がとても魅力的です。

河野 杏は見た目は若い女性ですが、千年分の記憶があるので、達観したおばあちゃんのような人なんです。ご高齢の方って、いろいろ経験を経ているのに表面だけ見ると無垢むくに見える、みたいなところがある気がしていて。

——千年分の記憶があるから言葉選びも独特で、そこも面白かったです。

河野 時系列を無視して、新しい言葉も古い言葉も使うんですよね。彼女はすべての時間軸を超越して、いまの自分にとって心地よい言葉を選んでいます。だから「にですね」という表現を使ったかと思えば、「マリアージュ」といった単語も口にする。

 また、千年にわたる言葉の変遷を体感しているので、表現の原型も知っている。「こんばんは」ではなくて、「今晩こんばんはどういたしました?」と言うキャラクターだろうと意識していました。

幻の本をめぐる争奪戦

——杏と一緒に暮らす祥子も自由で楽しい女性ですね。普段は神戸こうべ三宮さんのみやにあるカレー店「骨頂こっちょうカレー」で働いているけれど、本業は正体不明の「盗み屋」。その祥子とともに、杏は「徒名草文通録あだなぐさつうぶんろく」という幻の和綴わとじ本を盗み出そうとします。これは、杏と恋人の運命の鍵を握る大切な本なんですよね。

河野 そうなんです。そもそも、岡田杏がいつか再会する恋人のためにプレゼントを用意する話になるんだろうなと予想して考え始めたんですが、どんなプレゼントもしっくりこなくて。それで妻に「長年付き合いのある人にプレゼントをもらうとしたら、何がいい?」って訊いてみたんです。そしたら、「毎年ひとつずつ思い出の品みたいなものをコレクションして、何年後かにプレゼントされたら感動するかな」って。それはいいなと思い、「千年にわたって恋人たちの記憶がつづられた文通録をめぐるお話」という軸が生まれました。そういう意味では私でなく妻のおかげで生まれた設定です(笑)。

——杏たちの他にもこの文通録を狙う人々が続々と集まってきて、ついには神さまたちまで現れて騒動が起きる。彼らがなぜ文通録を求めているのか、それぞれの事情もユニークでした。

河野 編集さんとの打ち合わせの際、文通録にどんなページがあったら面白いだろうと羅列られつしてみたんです。津軽三味線の楽譜とか、浮世絵とか、押し花とか……。そこから、文通録をほしがる人たちのキャラクターを作っていきました。

——物語は主に杏の視点で進みますが、折々に他の人たちの視点も入ってきます。さらに恋人たちがこれまでの千年間に経験した出会いや別れのエピソード、現世で文通録を求める人たちの事情も挿入され、そのひとつひとつが面白かったです。

河野 長篇の中に掌篇がたくさん挿入されるという構造にしてみました。ちゃんと書くと冗長になるところを、思い切って別の視点に飛んで、また新しい物語がはじまる。そうすれば、それぞれのエピソードの一番美味しいところを味わってもらえるかなと。

神さまたちとの知恵比べ

——物語の舞台となるのは、神戸や城崎きのさき温泉です。これがまた、作品の雰囲気を盛り上げていますよね。実在する場所を選んだのはどうしてですか。

河野 日本の神さまって、場所との縁が深いんですよね。だから自然といろんな地域を登場させることになりました。それに、今回はちょっとふわふわしたお話なので、リアルなものも出したほうが現実との接地面ができて読みやすいかな、とも考えました。

 神戸については、兵庫県在住の私にとって馴染みのある、欠かせないエリアだから。作中に出てくる金星台きんせいだいも本当にある場所で、現実と齟齬そごがない感じで書いたつもりです。

愛されてんだと自覚しな河野裕

定価:1,870円(税込)発売日:2023年05月25日

愛されてんだと自覚しな河野裕

発売日:2023年05月25日