高校時代、こんな本を読んできた/永井紗耶子

高校生直木賞

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高校時代、こんな本を読んできた/永井紗耶子

文: 永井 紗耶子

第11回高校生直木賞候補者競作エッセイ

第11回高校生直木賞候補作
永井 紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮社)

「今、ここ、私」の本

「本を読みなさい」

 これまでに何度となく言われてきた言葉だと思う。

 しかし、私はその言葉があまり好きではない。「読みなさい」と命じられた瞬間、それらの本はひどく無粋で、色褪せて見えてしまうからだ。

「読んでみてよ。面白いから」

 その言葉の方が遥かにいい。そこには言った人の中に、鮮やかな色彩が見える。美しさ、楽しさを共有したいという熱を感じるからだ。

 何故、本を読むのか。学生時代の自分のことを振り返ってみる。高校時代の私にとって、本は最早、「飲み物」のようだった。ともかく、知りたいことが多すぎたからだ。

 高校生の頃、歴史小説家になりたいと思っていた私は、ある時、平安時代に興味を持った。永井路子、田辺聖子の作品を読み、「こんな作品を書けるようになりたい」と思ってしまった。

 何とかして近づきたい……。そのためには何を読めばいいのか。

 ともかく、神保町の書店街に行き、紙袋一杯に本を買って帰って来た。

 枕草子、古今和歌集、今昔物語集を読み、有職故実を調べ、装束をまとめた写真集と寝殿造りの図を眺めると共に、当時の歴史について学術書をかき集める。そして、表現を増やすために四字熟語集を見つつ、漢詩の解説を読む。一つの時代を調べようとするだけで、こんなにもたくさんの本があることに驚き、飽きることのない面白さに感動した。

 今、自分の本棚を見ても、そんな風に高校時代に読み漁っていたものが、ベースになっているように思う。

 本を読むということは、自分の好奇心を満たすこと。それはとりもなおさず、「今、ここ、私」を最大限に愛することでもある。

 人生を楽しもうと思うと、その先には好奇心が湧いて来る。それを満たそうとした時に出会った本たちは、人生を彩り、いつまでも心に残っている。

オール讀物2024年7・8月号オール讀物編集部

発売日:2024年06月21日

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