高校時代、こんな本を読んできた/万城目学

高校生直木賞

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高校時代、こんな本を読んできた/万城目学

文: 万城目 学

第11回高校生直木賞候補者競作エッセイ

第11回高校生直木賞候補作
万城目 学『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)

キミに耳打ちしたいこと

 高校時代には読むことができて、今はすっかり読むことができないもの、なーんだ?

 なぞなぞの如き出だしであるが、あくまで個人的な経験に基づく問いかけである。されど、人間は成長するにつれ、あまねく余暇の時間が削られ、集中力や挑戦マインドも減退する社会的生物である以上、案外、このQ&Aは多くの人に該当するものではないか――、とも勝手に推測する。

 答えは「10巻を超えるシリーズもの」だ。

 このエッセイを書くに際し、高校時代の読書の記憶を蘇らせてみた。そこに現在も変わらぬ己の読書傾向のルーツを発見する一方で、完全に途絶えてしまった読書傾向があったことにふと気づいた。そう、それが「10巻を超えるシリーズもの」である。

 もちろん、社会人になってからも、小説家になってからも、シリーズものは読んでいる。しかし、司馬遼太郎や吉川英治や北方謙三や沢木耕太郎など、近年読み返したり、新たに挑戦したシリーズものは5、6巻あたりで完結がほとんど。ただのひとつも10巻超えはない。

 翻ってあのころ――、高校生の時分、壁に変な具合に頭を預け、どれほど首まわりが窮屈な姿勢であってもドンドコ読書したタイトルを思い返してみたら(以下、私が高校生だったあたりの刊行&読書実績に基づく)、『帝都物語』シリーズ10巻、『宇宙皇子』シリーズ20巻、吉川英治『新・平家物語』16巻、山岡荘八『徳川家康』26巻、『銀河英雄伝説』シリーズ14巻……。

 一日3巻は軽い、というブルドーザーの如き読書大進軍ができたのは遥かむかし。今は三輪車くらいの馬力しかないわが読書実績を前にして、高校生のみなさんには、

「ぜひ、10巻を超えるシリーズものに挑戦してほしい。乱読バンザイ!」

 と声を大にして訴え、けしかけたい。

 それと同時に、シリーズものは若い読者を一気に獲得するのだなあ、とわが読書歴から如実に導かれる事実を前に、なるほどシリーズものを書くのもいいな、と新たな視点を得た私である。

八月の御所グラウンド万城目学

定価:1,760円(税込)発売日:2023年08月03日

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