心に傷を負った大学院生・岡田一心は伝説の映画女優・和楽京子こと石田鈴の自宅で荷物整理を手伝うことに。引退した今なお美しい鈴さんの胸に秘められていた波乱万丈な映画人生、原爆が奪った運命と大切な人たち――その過去に触れるうち、一心の胸にあたたかな光が灯る。清冽な感動に包まれる島清恋愛文学賞受賞の傑作長篇。
長崎の8月といえば、原爆の季節です。子供たちは夏休みのど真ん中の8月9日に、学校の体育館に集められ、あの日に故郷で何があったのか、丁寧に教えられます。長崎出身の吉田修一さんも、そして私も、そんな子供たちの一人でした。 ひとりの伝説的映画女優の美しい生涯を描いた本作を通して吉田さんが描きたかったのは、戦争が、とりわけ原爆が何を奪い、遺したのか――大切な人を喪った者たちが、悲しみや寂しさとどう折り合いを付けて人生を歩いていけばよいのか、ということだったと思います。 書き手も読み手も戦争体験者が少なくなり、非戦争体験者が戦争を、原爆をどう描けばいいのかが難しくなっている中、悲惨を悲惨と受け止めつつ、自身の肌感覚と言葉で、軽やかかつ伸びやかに描けたのは、原爆の季節の、あの街独特の空気を胸いっぱいに吸い込んだ吉田さんだからこそだと思うのです。 高校2年の夏、暑い暑いあの街で『パーク・ライフ』を読んでいた16歳の私に、「20年後、同郷の大先輩の記念碑的作品に立ち合えるよ」と囁いても、まさか信じなかったでしょう。これほど長崎県人、出版人冥利に尽きることはありません。
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