日めくり立ち読み『感受体のおどり』

第29番

文: 黒田 夏子 (作家)

登場人物紹介

 どうかして肖(に)たくない,そんなふうにだけはなりたくないとおもっている者からなにかを習う気になどなれないのは自明なのに,がっこうの教員たちは私の強情な怠惰を屈服させようとやさしげな根気を示しては殺意をそそった.もしも押しつけがましさの少ない,体温をもたない,書物というものがなかったら,私は毬犬(まりーぬ)なみの劣等児でありつづけたろう.

 毬犬(まりーぬ)のように朝ごとの頭痛や泣きわめきによってしじゅう休んだり,嵐犬(あらしーぬ)や針犬(はりーぬ)のようにおおやけの捜索をくりださせるほど度はずれな道くさをくったりはしなかったのと,どちらかといえば明るいいんしょうをあたえるらしい外形とのために,おとなたちは私を,むしろくったくのなさすぎることがもんだいな小児期をおくっているものと見なしてしつこくかまった.私が受けいれたくなかったのは,そうじどうぐから地球の自転速度にいたることごとくであり,それらをこばまないどころかあとから来るすべての者にもこばませまいとする世界の卑しさのことごとくであって,いくらかましにしようとかどれとどれだけ変えたいとかではなかったから,そのとりとめのなさが見かけをもとりとめなくしていて暗さや険しさを刻まなかったのかもしれないが,そのためにしばしば敵から身かたかと誤読された.

 若い月白(つきしろ)が小児のけいこにいっこう気のりしていなかったことは,たくまずに私の敵意をかわした.肖たいと,はじめて私はおもった.そのとき私はおとなになっていくことに同意した.この世界で生存をつづけるためのいかがわしいあれこれに,ふしだらなまでにつぎつぎと同意した.

感受体のおどり
黒田夏子・著

定価:1,850円+税 発売日:2013年12月14日

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