昭和二十三年(一九四八年)、敗戦に打ちひしがれていた日本は、暗いニュースばかりに覆われていた。一月には帝銀事件で十二名が毒殺される。また、関西汽船・女王丸が瀬戸内海で触雷沈没、百八十三名が行方不明となる。六月には、福井県で大地震、死者三千七百六十九名の被害を出した。九月には昭和電工事件で大蔵官僚福田赳夫らが逮捕された。そのような暗い世相にあって、一人の水泳選手が驚異的な泳ぎで人々に希望をもたらした。
「フジヤマのトビウオ」古橋廣之進である。
〈なにしろ泳げば世界新記録だった。特に二十四年、戦後初の海外遠征の全米選手権で古橋、橋爪ら六名が一挙にして九つの世界新を出し、見事にアメリカを破ったとき、国民は文字通り雀躍りしたものだった。その喜びは、この太平ムードの現在となっては想像のつかない種類のものかも知れない〉(「文藝春秋」昭和四十一年=一九六六年九月号)
古橋廣之進は昭和三年(一九二八年)生まれ。JOC(日本オリンピック委員会)会長などの要職を歴任した。平成二十一年(二〇〇九年)没。
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