――もう、逃がさへん。あんたはうちの奴隷や。
『ダブル・ファンタジー』で性愛の波に翻弄される女性脚本家の姿を描き、大きな反響を呼んだ村山由佳さん。
待望の新刊『花酔ひ』には、アンティーク着物店を始めた麻子とブライダル会社に勤める誠司、京都で葬儀会社を営む桐谷正隆と千桜(ちさ)――という二組の夫婦が登場する。本書は、女性のみならず男性の視点から、そして嗜虐(しぎゃく)・被虐(ひぎゃく)というアブノーマルな性愛にまで主題を広げて、官能の海に溺れていく人間の姿を浮き彫りにする、じつに衝撃的な長篇小説なのである。
「女性の性愛だけを描いていると、到達できる地点が限られてくると感じるようになりました。もっといろんな道筋から、性愛の極致に迫ってみたい。そう思ったとき、女性と同じくらいの比重で男性を描きたいし、さらには世間がイメージする男性的な男だけでなく、マゾヒスティックな性の願望を潜ませている男性も描いてみたい、そうすれば、新しい世界が開けてくるんじゃないかという予感がありました。
官能を描こうとすると、自分の中でスイッチを入れる必要があるんです。ベッドシーンを書くたび、脳も身体もその場面を実際に体験しているように火がついてしまう質(たち)なので、2組の夫婦、四者四様の性幻想を追体験していくのは本当に大変でした。ぐったり疲弊するし、悶々(もんもん)としてなかなか日常生活に戻れないし(笑)」
それぞれ昼間は家庭人として、職業人として、日常生活を維持する努力を惜しまない四人。しかし、ひとたび官能の果実の味を知ってしまった彼らは、少しずつ、日常と性的幻想との乖離にもだえ、苦しむようになる。
「人間性を重視して選んだ家庭生活のパートナーが、性愛のファンタジーの部分でも互いの好みを補完しあえる相手であるなんて可能性は、奇跡的に少ないことだと思います。まして、誠司は、世間的には受け入れられにくい被虐の願望をもっている。そんな彼が、自分の“神”になりうる人妻、千桜と出逢ってしまったとき、日常生活をおくれなくなるくらい深みにはまってしまうのは、やむを得ないことなのではないでしょうか。
物語の着地点がまったく見えないまま、不安にかられながら、手探りで書き進めていきました。書きながら、私自身ものっぴきならないところまで追い込まれていくようでした。この登場人物たちは、そして私は、どこへ行ってしまうのか……。でも、それくらいのっぴきならない状況まで追い込まれない限り、本当に燃える性愛、恋愛なんて得られないと思うんですよ」
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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