- 2013.08.08
- 書評
「アイデア工場」での知的冒険譚
文:成毛 眞 (HONZ代表・インスパイア取締役代表)
『世界の技術を支配するベル研究所の興亡』 (ジョン・ガートナー 著 土方奈美 訳)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
デジタル化の理論を発明する
1955年、ベル研を辞めた接合型トランジスタの発明者、ウィリアム・ショックレーがショックレー半導体研究所をマウンテンビューに設立した。母親の実家があったからである。しかし、上司としては信頼感や経営能力に劣るショックレーのもとを技術者たちは次々と去り、インテルなどの最先端企業をこの地で創業したのだ。
ショックレーだけでなく、登場する人々はじつに個性的であり魅力的だ。すべての情報はビットで測ることができる。いまではあたり前になった音声も映画もデジタルで送受信できるという理論はクロード・シャノンが独自に創りだしたものだ。シャノンはさらに誤り訂正符号というデジタル化にはなくてはならない理論も創りだした。たった1人でまったく新しい学問領域と重要な理論のほとんどを創りだしてしまったのだ。そのシャノンの趣味は一輪車やジャグリング、おもちゃ作りだったという。そして情報理論も彼の子供のような好奇心の対象の1つでしかなかったようなのだ。
ちなみにシャノンの研究領域はノーベル賞の授賞対象外であった。まったく新しい学問だったからだ。賞とは無縁であったシャノンに対して1985年、第1回京都賞によってその功績を称えることができたことは日本人として誇りに思うことの1つである。
最後になるが、本書は日本におけるイノベーション研究の基礎的な資料としても、ながく利用されるであろう。巻末の「情報源」「参考文献」「注記」など、原書のままにすべてを訳出しているため、第一級の資料に仕上がっているのだ。それどころか、各章の見出しと紹介文、パラグラフの小見出しなど、原書にはないものを付け加えていながら、原書を上回る作品に仕上がっていることは、日本語版読者としてはありがたい限りである。
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