書評

奥山景布子は琵琶法師である

文: 大矢 博子 (書評家)

『源平六花撰』 (奥山景布子 著)

 そしてそれを更に強めているのが、もうひとつの本書の魅力である、文体だ。

 本書の文体は実に流麗である。言葉のひとつひとつに裏付けがあり、リズムがあり、まるで古典をそのまま読んでいるかのようだ。それが決して難しくはないことに驚く。中には見慣れない単語も出てくるが、知らない言葉なのに流れの中で意味を汲み取れてしまうのである。これは文章が持つ力だ。著者はその文体で、語彙で、表現で、読者を八百年前の世界に取り込んでいる。まさに琵琶法師のなせる業である。国文学が専門とは言え、これがデビュー作なのだから恐れ入る。

 本書は歌舞伎をまったく知らなくても、あるいは源平の歴史に詳しくなくても、六つの女性の物語として虚心に楽しめる。それは物語の面白さもさることながら、この文体がひとつの世界を作り上げ、読者を古典の世界へと巧みに誘っているからに他ならない。

 もしあなたが歌舞伎を知らなかったら、本書を読んだあとで、元になった歌舞伎を是非観るなり読むなりしていただきたい。ネタバレになるのでここで紹介するのを控えた著者の工夫が随所にちりばめられていることに驚くに相違ない。歌舞伎に詳しい方は、著者が歌舞伎の何を生かし何を変えたか、その緻密な趣向に感嘆されたことと思う。大胆にして細やかな違いを存分に堪能されたい。

 歴史は、それ自体が物語だ。

 その物語は、伝える者の思いと技術によって千年の時を超える。奥山景布子という、登場人物と読者の両方の心に寄り添う格調高い琵琶法師の出現を、心から嬉しく思う。

源平六花撰
奥山景布子・著

定価:590円+税 発売日:2013年11月08日

詳しい内容はこちら