本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
「戦う経営者」の最強リーダー論

「戦う経営者」の最強リーダー論

文:御厨 貴 (東京大学教授)

『明日のリーダーのために』 (葛西敬之 著)


ジャンル : #政治・経済・ビジネス

 政治家の問題もある。国鉄改革の時の総理は中曽根康弘氏。「戦後政治の総決算」を標榜する中曽根氏にとって、「戦後」そのものである国鉄の改革は、まさに政治生命を賭けて取り組むに足るテーマだった。くわえて、葛西氏ら「改革派」と共同歩調で改革を推し進めた第二臨調の会長は、あのメザシの土光敏夫氏であり、第二臨調を参謀として仕切ったのが、当時伊藤忠会長だった瀬島龍三氏である。現在の鳩山由紀夫首相、前原誠司国交相とは、スケールの大きさ、実力とも比べるべくもない。 『明日のリーダーのために』という書名には、〈今こそ現実の厳しさを直視し、世界の大局を見て方向性を示し、確固たる信念を持って前人未踏の二十一世紀を切り拓くリーダーが現れてほしい〉との願いが込められている。葛西氏自らがリーダーとして成長していく過程を詳細に辿っているのも、その参考になれば、との思いからだ。

 葛西氏が類稀(たぐいまれ)なリーダーとなれたのには、いくつかの要因がある。まず、教育者だった父の影響が大きい。父と毎週正座で向き合い、『論語』を音読するという経験は当時でも珍しかっただろう。幼少時からの読書体験は葛西氏にとってかけがえのない財産となっている。

 また、東京大学法学部時代の恩師・岡義武先生の影響も大きい。私も岡門下に連なる身だが、岡先生のリアリズムは葛西氏の中に色濃く息づいている。「歴史は思想でも科学でもなく、物語なのだ」という岡先生のエピソード主義は、葛西氏が国鉄改革という「歴史」をとらえる際にも、いかんなく発揮されている。その視線はあくまで冷徹。国鉄を一生を賭ける仕事とは考えず、一度大学に戻り、学者の道を目指そうとしたことからも、それはうかがえる。だから、左遷されても特段意気消沈することもない。複眼的に物事を見ることができるのだ。

 そして何より、旺盛(おうせい)な戦闘意欲。調整型のリーダーが評価されるこの国においては、誠に珍しい。だが、今の日本に必要なのは、本書にあるように、〈地図を見ながら着実に目的地に導くことができる人々〉ではなく、葛西氏のような〈新たな地図を描くことのできる人物〉に他ならない。 「私の役割は指揮者」などと見当違いもはなはだしい総理大臣や、「みんなでやろうぜ」とまるで意気の上がらない野党総裁はもちろん、リーダーを目指す人、リーダーを育てたい人に強くお薦めしたい。

明日のリーダーのために
葛西 敬之・著

定価:798円(税込) 発売日:2010年04月20日

詳しい内容はこちら

プレゼント
  • 『神域』真山仁・著 

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2022/10/5~2022/10/12
    賞品 『神域』真山仁・著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る