映画監督の小津安二郎はローアングルで撮るので有名だった。撮影所で、キャンバス張りの椅子ではなく、ざぶとんを敷いて坐っている小津安二郎のすがたは独特である。
〈仕事中の小津安二郎をセットにたずねると、かならずといっていいほど、床にどっかとあぐらをかいている彼をみかける。キャメラを低くかまえるので、そうしないとファインダーものぞけないし、芝居もつけられないからだ。(中略)小市民生活の哀歓と機微を描いてあますところのない小津演出の秘密は、このざぶとんにあるとも言えようか〉
写真は「週刊文春」(昭和三十四年=一九五九年十一月十六日号)グラビアのために撮影された。未公開の「菊五郎の鏡獅子」をのぞいて監督デビューからちょうど五十本目にあたる「浮草」の撮影風景である。二十四歳で初めて監督した「懺悔の刃」以来、男女の愛情よりも、親子、兄弟姉妹、師弟を好んで取り上げた。小津安二郎は明治三十六年(一九〇三年)生まれ。昭和三十八年(一九六三年)没。
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