自動車が売れなくなったといわれる昨今だが、高級車はかつてまぎれもなくステータス・シンボルだった。「別册文藝春秋」昭和三十五年(一九六〇年)九月号には、「自動車と私」というタイトルで、人気作家とその愛車を写したグラビアが載っている。柴田錬三郎の愛車はベンツ。
〈この車は都会の真中をノロノロ走るにはおよそ不向きだ。スピードをあげると沈みこむような感じがいい。アルプス越えなどには絶好の車だろう。ベンツのマスコットは美しいのでマニアの所有欲をそそるのか、この夏盗まれかけた。以前は高く売れたらしいが今は格安の和製もある由。無駄な危険を冒さぬよう念の為申し添える〉
撮影されたのは、東京・上野の国立博物館。当時、六〇年安保闘争の結果、岸内閣が倒れ、池田内閣が成立。年末には国民所得倍増計画が閣議決定された。日本経済は高度成長の道をひた走ることになる。
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『烏の緑羽』阿部智里・著
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