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ビリヤード場で玉を突く円地文子

ビリヤード場で玉を突く円地文子

文・写真:「文藝春秋」写真資料部

 のちに「源氏物語」の現代語訳で文化勲章を受ける円地文子が、街のビリヤード場で玉を突いている。「別册文藝春秋」昭和三十二年(一九五七年)十二月号に掲載された「小説家の休日」の一枚。隣のページで江戸川乱歩が8ミリ映写機をいじっていたりと、他の作家がそれぞれ「らしい」趣味を披露するなか、「無芸」と自称する彼女が唯一嗜みのある遊びというのが、これ。

「娘の頃、毎夏鎌倉で借りていた家に玉突き台があって、父が突くのを真似て遊んだ」

 父とは、東京大学国語学教授の上田萬年。玉突きは「父との思い出」なのだ。

 明治三十八年(一九〇五)年生まれ。幼い頃から「病気の問屋」と呼ばれたほど病弱で、日本女子大学附属高等女学校中退後は、父の個人授業で、戯曲や古典文学への造詣を深くした。

 東京日日新聞で当時有名だった記者の円地与志松と結婚。小山内薫、谷崎潤一郎の薫陶を受け、数々の病気に見舞われつつも、戦後女流作家の第一人者となる。

「谷崎潤一郎賞」の選考委員を第一回から務めるが、自分の小説への授賞を主張し、とうとう五回目(昭和四十四年)に「受賞者」になってしまう、という「お嬢様作家」らしい話も。

 昭和六十年文化勲章受章。昭和六十一年に没した。

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