書評

私たちはおじさんたちなしでは
生きていけない

文: 朱野 帰子 (作家)

『おじさん追跡日記』 (なかむらるみ 著)

 家庭、学校、商店、会社、道端、あらゆるところに、おじさんはいる。日常にとけこみすぎているために、まじまじと見ることはあまりない。それに、みんな似たような格好をしている気がする。子供の頃、父親を雑踏から探しだしたら別のおじさんだったという経験をした人も決して少なくないことと思う。

 そんなおじさんを長年観察し、2年前には『おじさん図鑑』(小学館)という本まで出した奇特な女性が、なかむらるみさんだ。企画当初、編集会議にずらりと並ぶ偉いおじさんたちから「おじさんの本なんか売れるはずないだろう!」と大反対されたというが、発売されるやいなや空前のヒットを飛ばし、おじさんイラストレーターとして広く名を馳せることとなった。

 なぜ売れたのか。それは、るみさんがおじさんに向けるまなざしがいつも真剣だからだと思う。「おじさんKawaii!」というようなミーハー心は片鱗も見えない。大事な標本に採集場所や日付を書いたラベルを貼っていく昆虫学者のような真摯な態度がるみさんにはある。

 なにより味わい深いのは、さっきまで煙草を吸ったり部下ににやにや笑いをしたりしていた姿を、生きたまま紙にピンで留めたがごときおじさんのイラストだ。イラストには鋭い観察眼にもとづく解説文も添えられていて、おじさんたちの多彩さ、奥深さに気づかせてくれる。何度読んでも面白い。

 そのるみさんが、新刊『おじさん追跡日記』を出すという。

 私はすでに『おじさん図鑑』を3回は読んでしまっているので新刊は嬉しい。さらに深くおじさんを追っていくというからとても楽しみにしていた。

 ページをめくってすぐに、その期待がかなえられたことがわかった。

 一番目のおじさん・山崎先生の項だけでもかなり読みごたえがある。

 山崎先生は高校の美術教師だ。高校生のるみさんを絵描き仲間のおじさんのプチ宴会に巻きこみ、みごとおじさん愛に目覚めさせた功労者でもある。

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おじさん追跡日記
なかむらるみ・著

定価:1,000円+税 発売日:2013年11月25日

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〈CREA WEB コミックエッセイルーム〉おじさん追跡日記