「登場人物を大学生にしたのは、私自身20歳前後が1番、死にたくないと思った時期だからです。若すぎるとこれまでの人生を振り返ることができないし、歳を取ると諦念のようなものも生まれてしまう。将来の明るい展望も持つことができる年代だからこそ、生き残ろうと必死にあがく姿が描けると思いました」
大学の廃墟探索サークル・時旅のメンバー5人は、27年前に土砂崩壊で当時屋内にいた5人の内、性別も分からない1人の遺体が発見されたラブホテルのシャトーブランシュ内を探索する。そんな中なぜか27年前、しかも事故の起こった30分前にタイムスリップしてしまった。5人はホテルから逃げだすものの、そのたびにタイムループして土砂崩れの前に戻ってきてしまう。しかも、事故までの時間が2分ずつ短くなって…。
サークルのリーダー・葦原は当時の再現、つまり誰かが死なないと、現実世界に戻れないという結論に辿り着く。死ななければならないのは誰なのか。正解を探すべく、メンバーは1人ずつホテルに残って死の恐怖に耐えることになった。
「時間が毎回30分戻るだけだと、物語がまったりしてしまう。彼らを焦らせるために2分ずつ短くする設定を思いつきました。実は好きなテレビゲームでタイムループものがあったので、それも参考にしています」
最初に葦原、次いで下級生の日吉、マドンナ的存在のまどか、自分が1番頭がいいと思っている間野坂、目立たない女子の秋穂の順で、ホテルに残るメンバー。しかし各人が、自分だけが死ぬかもしれないという状況にエゴを剥き出しにしていく姿が、5人の視点で生々しく描かれる。
「5人が非日常の世界でどういう風に考えて行動するかを考えるのは楽しかったですね。特にある人物が狂気を発露させることで作品のタイトルである『たったひとり』という言葉の意味が変化するシーンを書いている時はうきうきしてしまいました」
物語は27年前の事故の真相に近づいていくと同時に、ラストでは著者も途中までは想定していなかったという衝撃的な展開を迎える。
「これまで、悲惨な話であっても、多少の救いや美しさがあったほうがいいだろうと考えていました。しかし、5人の身勝手さを書いているうちに、彼らを生み出した私自身の中の醜さが見えてしまい、許せなくなったがゆえにラストを変えたんです。結果的に、自分の小説観を壊すことができた転機となる作品になったのではないでしょうか」