で、けっきょく3回目は、「排卵検査薬」というのを使うことにした。
基礎体温だけじゃなくって、排卵日をダブルで特定してやろうという魂胆だ。だいたいこのあたりかなーという数日間、キットに尿をかけつづけて、陽性のしるしがでるとそこから24時間以内に排卵するぜと教えてくれるすごいやつ。
そのしるしが出てからできるだけ多く性交すると確率があがるので、ものすごく忙しかったけれど、われわれはなんとかがんばった(そのキットでわかったのだけど、生理周期が28日と、ものすごく規則正しいわたしでも、排卵は予想より5日もずれておきていた。調べないままだったら、妊娠しなかっただろうと思う)。年齢のこともあるし、これで駄目ならちょっと婦人科に相談だな、と思って、並行して、それも調べる毎日。そこからの1ヶ月間がまたもや長く、ほんとに長く、毎日は、なんだかはっきりしない泥のようなあんばいだった。よくてもだめでも、結果が一刻も早く知りたくて、生理予定日を1週間は超えないと使っても意味のない妊娠検査薬を使いつづけるという、一部の妊娠待ちの女性のあいだではおなじみらしい、いわゆる「フライング地獄」にわたしもはまって、何本も無駄にしてしまった。
体や、においや、いろいろなことやものを観察するのが好きで、いよいよ妊娠するかもしれないと睨んでいたこの1ヶ月は、気がついたことや変化についてじつにこまかく、いろいろなことをアプリに記録していた。
妊娠は、卵子と精子がくっつくだけではだめで、くっついたそれがちゃんと子宮に着床しなければならない。くっついてから着床するまでに7日から12日かかる。そして着床するときに着床痛というのを感じる人もいるときいたとたん、わたしは連日ベッドに横になって、まるで瞑想者のように、体のすみずみにまで神経をみなぎらせて、着床するその瞬間を見極めようと必死になった。今から思うとほんとに頭おかしいなと思うんだけど、でもなんか、そうなっていた。そしてある夜(日記によると2011年9月10日、午後8時21分)──「ちくちく」とふともものつけ根ちょっとうえあたりに、はっきりとした痛みを感じたのだった。今のがうわさの着床痛かも! とわたしは声にだして感激し、すかさずアプリに「おなか、ちくちく」と書きこんだ。「これは、妊娠あるで……」という手応えがめらめらとめばえ、体温を測る毎朝の口にも力がみなぎった。そして生理予定日が近づいても体温は下がる気配をみせない(生理がはじまるときって、体温ががくんと下がるんです)。「こらきたかも!」と気分もあげあげで、結果、めでたく妊娠、とあいなったのであった。
病院からの帰りみち、あべちゃんとあほみたいに「おったなー」「おったねー」「おったなー」「なー」みたいな会話をくりかえし、とても興奮していたので何を食べてどうやって帰ったのかも、あんまり覚えていない。
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