年度末が近づくと、サラリーマンなら誰しも気になるのが人事異動。希望の部署にいけるだろうか? もし、意に沿わぬ職場にとばされたら……。内示を前に、戦々恐々としている会社勤めの人たちに、ぜひ読んでほしいのが本書『プリティが多すぎる』だ。
主人公は、総合出版社に入社して3年目の若手社員・新見。文芸編集者を志望する彼に下された辞令は、なんとローティーン少女向けファッション誌「ピピン」への異動だった。
「実際に少女誌に異動したオジサン編集者の体験談を読んだことがあるんです。『カタカナ用語がさっぱり理解できない』『女の子たちが何を喋っているか一言もわからない』と、すごく切実なコメントが紹介されていて(笑)、あ、これは小説の舞台として面白そう、と思ったのが発想のきっかけでした」
ところが、いざ連載をスタートし、雑誌の主役である少女モデルたちを取材してみると、想像とのギャップに驚かされることばかりだったという。
「モデルの世界って、もっとドロドロしてると思ってたんです(笑)。みんなまだ小中学生だし、ライバル同士だから、子供っぽいイジメとか、『こっちのバッグのほうがいい!』みたいなワガママが炸裂する、大変な世界だろうと期待して話を聞くんですけれど(笑)、みんな、すごく大人なんですね。
例えば、ふだん一緒に撮影している4人のメンバーのうち1人だけが、今後、雑誌のモデルを継続できるという状況があるとします。でも、控え室で『自信なーい』とか『○○ちゃんなら大丈夫だよー』みたいな子供じみた会話は絶対しない。結果が出て、みんなそれを知っていても、誰もその話題には触れず、辛さも喜びも顔に出さないで、他愛ないお喋りで笑い、和気藹々と目の前の撮影に臨むんだそうです。
みんないろんなオーディションを受けるので、落ちた子も別の場所で受かるかもしれないし、次の仕事場でまた一緒になる可能性がある。スタッフとも、モデル同士も、常に大人の関係を維持していないと、仕事を続けていけないんですね。そういうシビアな現実を、小学生のモデルさんでさえ、よく理解しているんですよ」
希望とかけ離れた職場にふて腐れ、やる気をなくしていた新見も、彼女たちのプロ意識に触れるうちに、次第に少女誌の面白さ、奥深さに開眼していく。本書を貫く「仕事とは何か」という真摯な問いは、くたびれたサラリーマンにも強烈なパンチとなるはずだ。
「私も時々反省します。他の作家さんの本が重版したって聞くと、いいなあ、どうして私の本は……って、ついつい愚痴っちゃうほうなので(笑)」