書評

言葉を尽くして語られる言葉には決してできない想い

文: 橘 もも

『半分の月がのぼる空』 (橋本紡 著)

 誰かを想うということは、足りない、と思い知らされることでもある。私の友人は、愛はそこから始まるのだと言い切っていたけれど、至言だと思う。その人のために何かをしてあげたいと思うほど、何もできない自分を思い知らされる。だけど何かをするしかないのだ。自分にできるだけの何かを。

 橋本紡さんの描く物語はいつも、優しい鋭さを持った愛に溢れている。橋本さんは、大好きな女の子との生活を守るために作家になった、と語っているが、本書はその「大切な人を守ること」への想いを濃厚に詰め込んだ、著者の原点ともいうべき作品だろう。

 主人公の裕一は伊勢市に住む普通の高校生だ。普通の定義が何かはさておき、飲んだくれて金遣いの荒い父親に苦しんだ過去を持つ以外は、とりたてて特筆すべき点があるわけではない男の子。そんな彼が肝炎を患い、入院した病院で、心臓を患う少女・里香に出会う。幼い頃から入院を繰り返していたせいで癇癪持ち、気難しい美少女が、あることがきっかけで裕一に心を開くようになり交流を深めていく、という筋自体はシンプルなボーイミーツガールの物語だ。けれどそこには、甘酸っぱい恋だけではなく、誰かの人生を引き受けることの重さと覚悟が繰り返し描かれている。

 とにかく伊勢市以外の場所に出て行きたい、広い世界を見てみたい、と望む裕一にとって、残酷な言い方をすれば里香は足かせでしかない。完治は望めないと医師が断言する里香に寄り添うのなら、裕一は想像以上にたくさんのものを諦めなくてはならない。人生の決断に他人を介在させるのは危険だ。彼女のせいで――そう思わせたくない、思われたくないがゆえに2人を近づけまいとする大人たちもこの作品には登場する。

【次ページ】大人たちと少年少女

半分の月がのぼる空1

橋本 紡・著

定価:683円(税込) 発売日:2013年07月10日

詳しい内容はこちら

半分の月がのぼる空2

橋本 紡・著

定価:641円(税込) 発売日:2013年07月10日

詳しい内容はこちら