最近はあまり見られなくなったようだが、日本の四季折々の風情を織り込んだ花札遊びはかつては老若男女が楽しんだ。文壇随一の美男子といわれた吉行淳之介も以下のように小説雑誌に登場している。
〈このところ、勝負事はほとんど花札遊びしかしなくなった。それも、さし向いでやるコイコイで、相手はほとんど阿川某一人である。十年前、彼に手ほどきしたころと違って、実力も似たようになってしまったので、一年間の勝負を通算すると、ゼロに近い。そうなるともう勝負事の意味がないのだが、四季の風物を写した極彩の札がなつかしいし、札と札とが打ち合わさるときの堅い冴えた音がよい。私のストレス解消には、これが一番である〉(「オール讀物」昭和四十年=一九六五年三月号グラビア〈飲む打つ喰う〉より)
吉行淳之介は大正十三年(一九二四年)生まれ。「驟雨」で芥川賞を受賞。平成六年(一九九四年)没。
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