――ありがとうございました。それでは、事前に募集した高校生の方からの質問を伺ってまいりたいと思います。
統一前のドイツから、高校野球まで多岐にわたる作品を書いていらっしゃる須賀さんですが、作品のアイデアをどこから見つけていますか。
須賀 多岐にわたるとおっしゃってくださいますが、二十世紀の歴史と野球ばかり書いていますよ(笑)。題材については編集の方から提案を受けることも多いです。今回、ポーランドを舞台に選んだのも編集者からの提案でした。
一つの作品が自作のアイデアにつながる
――前作の『神の棘』で、同時代のドイツを舞台にナチス親衛隊や修道士たちの姿を描き、それを受けて次作はポーランドを舞台にしたらどうかと言われたそうですね。
須賀 そうです。でも、先ほども申しあげましたが、その時代のポーランドは、四千人以上のポーランド人将校がソ連によって虐殺されたカティンの森など悲惨な事件ばかりで、現代の日本人に向けてそれをエンターテインメントに仕上げるのは難しいと考えて、返事を保留しました。ところが、他の作品を書いていくうちに、アプローチの方法や視点が見つかっていくんです。『紺碧の果てを見よ』で日本海軍、『革命前夜』でベルリンの壁崩壊の話を題材としたことが、『また、桜の国で』を書くことにつながりました。第二次世界大戦の小説の舞台はやはり日本の話が多いですよね。だからこそ、同時代の他の国はあの戦争をどう見ていたのか、そこから日本はどう見えていたのか、という視点が興味深いと思うようになりました。
――執筆する際の史料や取材の方法についての質問も来ています。
須賀 ご想像の通り、ポーランドの資料って日本ではなかなか見つからないんです。監修をお願いした渡辺克義教授に教えていただいたりしました。大使館側にも資料があまり残っていなくて、描写は想像で補っているところが多いです。でも、やはり限界もあったので、連載を終えてから単行本の作業の前にポーランドに行きました。
――選考会では「ドイツ側の視点も欲しかった」という意見がありました。
須賀 ドイツの視点は、作品を読みやすくするために私があえて避けた部分でした。そこを欲しいと言ってくださるのは、友情だけではなくて、この戦争の敵側の都合を知りたいということですから、そう思っていただけるのは嬉しくもあります。一作一作で、きちんと視点と構成を考えるべきだと改めて肝に銘じました。