――高校生のときは、どんな本が好きでしたか?
須賀 辻邦生さんの『背教者ユリアヌス』に感動して、面白いところに付箋をつけて友達に薦めたけれども、付箋つけすぎて読んでもらえなかったという思い出があります(笑)。読んだきっかけは、思い返すとかなりの中二病なのですが、「背教者」ってカッコいいなと思ったんです。ただ、世界史ではユリアヌスはキリスト教を迫害した皇帝として教わりますが、実際に読んでみると迫害はしていないし、キリスト教の方が独善的ではないかと感じたんです。ユリアヌスは、彼の立場で理想の政治や社会を実現しようともがいたのだなと感動しました。最近、『背教者ユリアヌス』は新装版が刊行され、その解説を依頼いただき再読しました。すると、キリスト教徒の立場にも理解できる部分が大いにあったので、私も少しは成長したのかなと思います。他には、トーマス・マンの『トニオ・クレエゲル』や吉川英治さんの『三国志』など、描くスパンが長い物語が幼少期から好きでした。
小説はスポーツ。執筆は筋トレ。
――文芸部で創作活動をしている高校生から、面白い小説の書き方を教えて下さいという質問がきています。
須賀 私が教えてほしいくらいです(笑)。ただ、持論として、小説はスポーツ、執筆は筋トレだと思っています。頭にあるものをアウトプットするのは筋肉の運動なので、毎日動かさないと滞(とどこお)るんです。長く書いていると必ずスランプが来ますが、そのときこそ長年の筋トレが効きます。書いた直後は、自分で納得がいかない文章のように思えるかもしれませんが、五年ほど経ってみると良いものだったりもしますよ。筋肉は裏切りません。
――それでは、会場にいらっしゃる高校生の方から質問をお願いしたいと思います。
女性A 名古屋大学教育学部附属高等学校二年です。ナチスを題材にした小説や映画を私も良く見ます。この問題はデリケートですし、描き方によっては傷ついてしまう人もいると思うのですが、気を付けているモラルや描写はありますか?
須賀 とてもいい質問ですね。ありがとうございます。私もその点は慎重に考えています。心がけているのは、極力感情を排除して、事実の描写を淡々と書くということです。悲惨さをアピールするために、ことさら残酷に書くことはしません。また、その動きに反対した人もいるという事実があれば、そちらも過不足なく書くようにしています。