
- 2025.07.22
- 書評
「藤井聡太の最年少記録を破る天才中学生が現れた――」額賀澪さん最新作『天才望遠鏡』を書店員さんはこう読んだ!
江連 聡美
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
青春小説の名手・額賀澪さんのデビュー10周年記念作品『天才望遠鏡』が発売となった。将棋、スケート、歌、競馬、小説……さまざまな世界に降り立つ天才と、その姿を“観測”しながら「どうしたって天才になれなかった」人々を描いた連作短編集。
部活に音楽、スポーツ、お仕事とさまざまなジャンルを瑞々しい筆致で描き続けてきた額賀さんのファンは業界内外を問わず多く、芳林堂書店高田馬場店で文芸を担当する江連聡美さんもその一人だ。日々、学生を中心に多くのお客で賑わう書店に勤める江連さんはこの作品をどのように読んだのかーー。

◆◆◆
額賀作品にはよくスポーツにかかわる年若い人々が登場しますが、今回はその代表作品といってもいいかもしれません。5編それぞれに読み味のちがう楽しさがあって本当に素敵で、少し泣いてしまいました。
マクドナルドのポテトすら口にしない
物語は、スポーツカメラマンの多々良智司の視点で幕を開けます。額賀さんファンの方は『夜と跳ぶ』(PHP研究所)を思い出し、ほくそ笑んでしまうかもしれません。
日頃、陸上やフィギュアスケートなどを撮影する多々良が新たに撮ることになったのが、「将棋」。スポーツ雑誌の編集部から「将棋をスポーツとして特集したい」との依頼を受けます。
向かった将棋会館で繰り広げられるのは、「藤井聡太の最年少記録を更新した“天才中学生棋士”」と、背水の陣に追い込まれた「かつての天才中学生棋士」との対局です。
スポーツの世界とは決して切り離せない新しい才能の出現と、残酷にも成績振るわず落ちていく者の行末、悲哀、苦しさ。天才とかつて天才であった者の対比が切ないほどに表現されており、どうにもならないとわかっていても思わず嘆息してしまいました。
2話目「妖精の引き際」では、その多々良が3年前に撮影したフィギュアスケーター・萩尾レイナが描かれます。彼女もまた、3年前のオリンピックでは金メダルを獲ったものの、怪我などで不調が続き、引退を囁かれる存在です。
誰も推し量れないほどの努力をいくら重ねても、怪我を負い、復活することができなければ競技人生を諦めざるを得なくなるアスリートの厳しさがひしひしと伝わり、彼女の明るさがより一層切なさを駆り立て、胸が痛くなりました。
より美しく滑るため、マクドナルドのポテトすら口にしなかった彼女がくだした決断には、思わず安堵を覚えるほどでした。
「妥協したくない」という葛藤
5編を通じて多々良がちょくちょく登場してくれるおかげで自分も作品の一員のように感じ、彼のカメラを通してそれぞれの人物が浮かび上がる様子も魅力的です。
多々良は私たち読者の代わりとして登場しているのではないか。そんな気がしています。

書店員の立場から特に印象に残っているのは、最終話「星原の観測者」です。
今をときめく超売れっ子作家(ただし性格にはかなり難あり)と、「売れてないわけでもないし売れてるわけでもない中途半端な中堅作家」。同期デビューの2人は周囲から比較されることはあれど、たがいの間では絶妙なバランスで関係を育んでいます。
人と人とが関わる中には本音も建前も行き交い、“うまく”生きていくためには多少は自分の考えを曲げることも必要でしょう。それでも、自分がプライドを持っていることに対しては妥協したくない。私たちも日々抱える葛藤が描かれる場面も印象的です。
序盤でかなり衝撃的な展開も待ち受けていますが、境遇こそちがえど、2人とも作家という仕事に心から入れ込んでいるからこそ抱える願いは切ないものでした。
日々書店で働いていると、額賀さんの作品を手に取る若いお客さんの姿を目にします。コロナ禍で書店に来てくださる学生さんも減ってしまいましたが、最近、ようやく活気が戻りつつあるようにも感じます。
ぜひ読者のみなさんにも、額賀ワールドに浸ってほしいと思います。
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