人間はみな愚かだということを出発点とする小説を書きたい (後篇)

作家の書き出し

作家の書き出し

人間はみな愚かだということを出発点とする小説を書きたい (後篇)

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

貴志祐介「作家の書き出し」

――『夏への扉』のハインラインですね。

貴志 そうです。人間個人だけでなく、集団のメカニズムが書けるんです。集団でどんなふうに意思決定がなされて、どんなふうにそれが転がっていくのか。淡々と数行の説明ですませてしまうんですが、それでも、なるほどと思わせる。社会や組織のことを理解しているんでしょうね。理解していない人間が書くとリアリティーがなくなってしまう。ですから、終末ものを書くには、社会に関心を持つことですね。どんなふうに社会が壊れるのかが分かっていないといけないので、結構ハードルは高いなと思います。

――今後はどういう小説を書いていきたいですか。

貴志 人間はみんな馬鹿だ、というところから出発する小説ですね。小説は、登場人物みんなが賢いと面白くもなんともないと思います。馬鹿で右往左往するから面白い。悲劇も起こり、喜劇も起こる。それをフィクションというかたちで、しかもエンターテインメントというかたちで、読者が考える契機にしてもらえる作品を書ければいいかなと思います。

――今構想中のものや、今後の刊行予定は。

貴志 連載が終わっているのに本になっていないものがいくつかあるので、それをなんとかしなきゃいけないんです。本にするする詐欺になってしまっているので(笑)。それと、今年は『週刊文春』で小説連載を始める予定で、それは現代社会が舞台のサスペンスです。実は自分の根っこにあるのはSFやミステリーだけでなく、サスペンスもそのひとつなんですね。ウィリアム・アイリッシュなんかのあの濃密なムードと、この先どうなるんだろうと思わせるハラハラ感とかもすごく好きでしたし。

――『幻の女』とかですか。

貴志 『幻の女』とか、『暁の死線』とか。あとは、書く予定の連載は女性が主人公なので、『わらの女』とか『レベッカ』とか。昔読んで面白いと思ったサスペンスのエッセンスを現代に甦らせたいという気持ちがあります。当然企みもありますので、面白いものになるのではないかと思っています。


きし・ゆうすけ 1959年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。96年「ISOLA」が日本ホラー小説大賞長編賞佳作となり『十三番目の人格ISOLA』と改題して刊行される。97年『黒い家』で日本ホラー小説大賞、2005年『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞、08年『新世界より』で日本SF大賞、11年『ダークゾーン』で将棋ペンクラブ大賞特別賞を受賞する。10年刊行の『悪の教典』は山田風太郎賞を受賞し、同年、宝島社「このミステリーがすごい!2011」国内編第1位、週刊文春「2010年ミステリーベスト10」国内部門第1位に選ばれた。その他の著書に『ミステリークロック』、エッセイ集『極悪鳥になる夢を見る』など。

罪人の選択貴志祐介

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