
- 2025.07.11
- インタビュー・対談
もし、若き二人が出会っていたら? 青柳碧人『乱歩と千畝』
「オール讀物」編集部
第173回直木三十五賞、候補作家インタビュー #2
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
〈ある自動車が繋ぐ、個人と世界の物語…逢坂冬馬『ブレイクショットの軌跡』〉から続く
2025年7月16日、都内にて第173回直木三十五賞の選考会が開かれる。作家・青柳碧人氏に候補作『乱歩と千畝』(新潮社)について話を聞いた。(全6作の2作目/続きを読む)

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もし、若き二人が出会っていたら?
江戸川乱歩と杉原千畝(すぎはらちうね)――一見すると接点のなさそうな二人だが、旧制中学と大学の同窓生という繋がりを持つ。この一点の事実から『乱歩と千畝』は生まれた。
「発端は、新潮文庫nexから依頼された乱歩の『青銅の魔人 私立探偵 明智小五郎』の解説でした。乱歩の青春時代を書きたいと思い、彼の背中を押すような人物はいないだろうか……と調べるうちに、杉原千畝が愛知五中と早稲田大学の六期離れた後輩だったと知りました。二人の交流を掌編にまとめ解説としたところ、この物語を長編にしませんかと相談を受け、書き始めました」
早稲田にある蕎麦屋・三朝庵(さんちようあん)で江戸川乱歩が、杉原千畝と出会うところから物語は始まる。大正八年、二人はまだ何者でもない若者だった。
「乱歩の人生を辿ると、この作家の本質は、逃げ出すところにあると感じたんです。猟奇性や犯罪者の自己完結的な心理などが乱歩の作家性として取り上げられがちですが、なぜ彼がそれほど頻繁に書けなくなるのか、そしてなぜまた書き始めるのか、ということに興味が湧きました」
乱歩から蕎麦屋でカツ丼を分けてもらった千畝は、父から示される進路に悩んでいた。しかし乱歩のひょんなひと言に背中を押され、外交官を志すことになる。
「千畝が抱えた孤独感と、それでも周りが放っておかない人柄は、乱歩にも共通する性質だと思います。特に千畝を描く上では、根底にある優しさと責任感のせめぎ合いを描きたかった。リトアニアの領事館で“命のビザ”を発給する彼の葛藤に、人間性が一番表れていると思います」
終戦を迎え、日本のミステリ界の中心人物となった乱歩。彼が雑誌「宝石」に寄せた、横溝正史『本陣殺人事件』への批評は、次世代の作家たちを奮い立たせる――。
「乱歩は、ミステリ愛好家として、探偵小説に恩返しするように戦後日本を生きた人物です。彼のバトンを受け取った人物たちが集結する展開はやりすぎかなと思いつつ、気合いを入れて書いた場面です。
実は、乱歩と千畝が実際に対面していた記録が残っています。十九歳で満洲へ渡った千畝は、終戦までほとんど帰国しませんが、昭和十年に開かれた中学校の同窓会に参加し、集合写真に乱歩と共に写っているんです。そこから“もし”を広げ、この物語を組み立てていきました。史料も数多く残る二人の人生が、新たな一面を見せていたら嬉しいです」
青柳碧人(あおやぎ・あいと)
1980年千葉県生まれ。早稲田大学卒業。2009年『浜村渚の計算ノート』でデビュー。他の著書に『むかしむかしあるところに、死体がありました。』『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』『怪談青柳屋敷』『怪談刑事』『令和忍法帖』『オール電化・雨月物語』の他、「西川麻子シリーズ」「猫河原家の人びとシリーズ」など多数。
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