人間はみな愚かだということを出発点とする小説を書きたい(前篇)

作家の書き出し

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人間はみな愚かだということを出発点とする小説を書きたい(前篇)

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

貴志祐介「作家の書き出し」

商業誌に載るのは最初で最後かもしれない

――新作『罪人の選択』は、まったく違う時期に書かれた「夜の記憶」「呪文」「罪人の選択」「赤い雨」の4篇を収録した作品集。貴志さんの原点から現在までが分かる内容ですね。

貴志 本のタイトルにもなっている「罪人の選択」を雑誌に書いたところ、「ぜひこれを中心にして短篇集を編みませんか」というお話をいただきました。編集者が、長い時間をおいてポツポツ書いたものから選び、「このラインナップで」と提案いただいた時は、ややバランスが悪いかなと思ったんです。「罪人の選択」だけミステリーというかサスペンスで、他はSFに分類される作品ですよね。それでしばらく寝かしていたのですが、時間をおいて読み返してみると、根っこのところの感じ方や考え方がどれも変わらないなと感じ、この4篇で据わりがいいように思いました。というのも、自分の考え方の根っこには、この宇宙で最強なのは時間だという思いがあるんだなと改めて分かったからなんです。

――巻頭の「夜の記憶」は1987年に『S-Fマガジン』に掲載されたSF作品。前年にハヤカワ・SFコンテストに短篇「凍った嘴」が佳作入選したことがきっかけですね。

貴志 そうです。「夜の記憶」ははじめて雑誌に載った短篇です。「凍った嘴」は『新世界より』の原型なんですけれども、それで佳作をいただいた時に当時の『S-Fマガジン』の編集長とお会いし、新たにひとつ短篇を書いてみないかという話をいただいたんです。なので「夜の記憶」は、もしかしたらこれが最初で最後かもしれない、というような気持ちで書きました。短いですけれども、自分のすべてが詰まっていると言っても過言ではない気もします。

――「夜の記憶」は水生生物の「彼」の物語と、太陽系を脱出する前にバカンスを過ごす夫婦の物語が交互に進む内容です。貴志さんはSFからミステリーまでさまざまな作風の小説を発表していますが、当時はSFを書きたい気持ちが強かったのですか。

貴志 この時はSF作家になりたいと思っていました。ただ、今にして思えば、SFではあるんですけれども、ミステリー的な要素とかホラー的な要素があった気がします。

――執筆した当時のことを憶えていますか。

貴志 これで書きたかったのはひとつの情景です。夢を見たんです。内容をはっきりとは説明できないんですが、宇宙を遠く隔てているような感じのもので、恐ろしいだけじゃなくて、非常にもの悲しい感覚があった。その感覚なり情景なりをどうやったら分かってもらえるかな、ということを考えながら書きましたね。

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罪人の選択貴志祐介

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別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)文藝春秋・編

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