大人がハマるファンタジー「八咫烏シリーズ」が特別なわけ

作家の書き出し

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大人がハマるファンタジー「八咫烏シリーズ」が特別なわけ

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

阿部智里インタビュー(前編)

現代社会への問題意識も盛り込んだ

――第1部もそうでしたが、現代社会にも通じる社会システムとか、支配と被支配の関係とか、幸せに生きるとはどういうことなのかとか、考えさせられるところもたくさんあって。

阿部 そうなっているといいなと思います。たとえば今回は、1部から仕込んでいた馬の話がメイントピックのひとつとして表れたなと思っていて。1部の第1巻が『烏に単は似合わない』で、お姫様の話から始まっているじゃないですか。当然のように、烏を馬として使っているという。

――そうですね。もともと雪哉たちは人間に姿を変えられる八咫烏ですよね。では、彼らが乗り物に使っている烏はいったい……という。

阿部 第1巻の段階からおそらく「この人たち、自分の同族をこんなふうに使ってなんとも思わないの?」と違和感を持った人はいたと思うんです。でも、それをあえて作中の人物に気づかせないことによって、「この異世界だとそういうものなのかしら」と思わせて、ここでようやく「やっぱりそれは問題だったんだよ」ということが書けました。個人的に、私は今の社会にも「馬」っていると思うんですよ。それに気づく瞬間というのを疑似体験できたらいいかなという意図もあって、こういうふうに作りました。それはひとつの例で、この話全体にそういうふうに、いろいろと今の時代が反映されているところがあって……と作者が言っちゃうのもあれなんですけれども。

――他にも、今の社会のいろんな問題を意識されて書かれているなと感じます。

阿部 意識して盛り込んでいるんですけれど、なかなか伝わらなかったりしますね。作中の人物が差別的なことを言っているのを、作者の言葉と思われたりして。それと、本当は女の山内衆も書きたかったんですけれど、やりすぎるとテーマがズレるなと思ってボツにしたりしました。難しいですよね。

 難しいなと思ったことがもう一つあって。私はいつも全体を通して分かる大テーマと、1冊を読んだ時に分かる小テーマを設定しているんです。でもシリーズの途中で読むのをやめられると真逆のメッセージに受け取られて、誤解されたまま終わることもあるんだなと、1部が終わった時によく分かりました。具体的にいうと、それまで築き上げた価値観を『弥栄の烏』でぶち壊しにするまでが私の言いたかったことなんですが、『空棺の烏』までしか読んでいない人には、それが伝わらなくて。

別冊文藝春秋 電子版34号(2020年11月号)文藝春秋・編

発売日:2020年10月20日

楽園の烏阿部智里

定価:1,650円(税込)発売日:2020年09月03日