――ああ、『空棺』は少年たちの学園もののような作りですが、あれがあるからこそ、『弥栄』で死闘が繰り広げられた時に「あの時のあの人が死んだ」「この人も死んだ」と、読み手が愕然とすることになりますよね。
阿部 『空棺』は完全に『弥栄』を見据えて作った巻です。でも『空棺』を出した時は読者さんも当然、どういう終着点になるのか分からないんですよね。最終的にどうなるのか把握しているのは私だけなので、そこが難しいなと思います。
――でもだからこそ、第1部が終わったことで、どれだけすべて周到に用意されているのかと圧倒された読者も多かったはず。第1部の最初から、第2部がどうなるかのイメージも明確にあったわけですか。
阿部 このシリーズで最初に生まれたのは、実は高校生の時に書いた『玉依姫』の旧版でした。山内という用語ができたのは、その瞬間だったんです。当時はまだ何もなかったんですけど、第1部第2巻の『烏は主を選ばない』を書いた時には第2部の大体の雰囲気はできていたなと思います。
決まっていることと決まっていないことがあるんです。起きる出来事は決まっていて、それをいかにエンタメとして面白く見せるかは決まっていない。カメラの回し方とか監督の演出みたいなものですね。今回に関して言うと、幕末を「新撰組の視点で描こうかな」と思っていたけれども「駄目だこれは、坂本龍馬だ」と思って書き直したみたいな感じです。
――今おっしゃったように、最初に書いたのは第1部第5巻の『玉依姫』だったんですよね。烏と猿がいる異世界を思いついたという。
阿部 そうなんです。その異界を表す言葉が必要だなと思っていた時に「山の中だから山内だ」となって、その瞬間「この山内という言葉にはすごく大きい世界があるぞ」と気づいて、ものすごいものを見つけたように感じました。それでデビューに至ったんだから、山内さまさまです。
――第1部では、1、2巻が対になって、3巻でこの世界の大きな問題が浮かび上がり、4巻で個々の物語があり、5巻で別の角度からこの世界を見せ、6巻でクライマックス――と、ただ時系列に話を並べるのではなく、何をいつ見せるかしっかり構成されていますよね。第2部はどうなるのでしょうか。
阿部 第1部は前日譚2本と起承転結なんですよね。毎回一番面白いと思ってもらえる形を考えながら作っていく感じなんですけれど。意外と自分は構成フェチなのかなという気がしなくもなくて。きれいな構成を見ると興奮するので(笑)、第2部もそうなっていったらいいなと思います。