――一度セルフボツにしたとのことですが、登場人物や大きな出来事の流れに変更はなかったのですか。
阿部 起こっている出来事は全然変わらないんです。でもはじめを案内する頼斗なんかは、最初のプロットにはいませんでしたね。
――え、めちゃくちゃ重要人物じゃないですか! ネタバレになるといけないから記事には詳しく書けませんが、ではどういう物語の骨格があったのでしょうか。今回は第1部の最終巻の『弥栄の烏』の死闘から20年後の話なわけですよね。
阿部 じつはセルフボツにした理由がもうひとつあって。最初は、1部の延長線で2部を書き始めたんですよ。つまり、この20年に何があったかを書いていたんです。そのほうが読者のみなさんがするっと読み続けられるだろうというスケベ心を出しまして。本当は、空中ブランコみたいに、いきなり違うところに飛び移るということをしたかったんだけれどもビビっていたんだな、と後になって気づいたんです。それで、思い切って空中ブランコをして、過去に何があったのかはある意味謎解きみたいな感じで作中で説明していくことにしました。
――今回は第1部で人気の高かったキャラクター・雪哉が、またちょっと違う顔を見せるというか、いやその顔は第1部から見せていたというか……。
阿部 意外だと思う人もいれば、「ああ、やっぱりな」と思う人もいらっしゃるんじゃないかと思います。私としては最初からこういう男であると思っていました。
――第1部から、実はものすごく伏線張ってますよね?
阿部 めちゃくちゃ張ってます。ただ、読んでいる時にあえて違和感を残すやり方はそんなに好きじゃないんです。味付けで必要だなと思う時には違和感を残しますけれど、その時はさらっと読めたのに、後になって「なんでこの時気づかなかったんだろう」とか、「こんなことやりやがって、作者め」と怒りと絶望をおぼえるような伏線が好きなんですよね。今回に関して言うならば、「第三の門」なんかは『黄金の烏』の時にも出していますし。あの時はおそらく「そういう設定があるんだな」くらいでさらっと読めたと思うんです。でも今読み返せば、もうそこでの輸出入で一回外界との間に何かあったんじゃないか、だからもう八咫烏が外にいてもおかしくないんじゃないか、というヒントは書かれてるんです。