近代日本の地下水脈 Ⅰ

哲学なき軍事国家の悲劇

1,056 (税込)
発売日2024年01月19日
ジャンルノンフィクション
商品情報
書名(カナ) キンダイニホンノチカスイミャク テツガクナキグンジコッカノヒゲキ
ページ数 256ページ
判型・造本・装丁 新書判
初版奥付日 2024年01月20日
ISBN 978-4-16-661440-0
Cコード 0295

この1冊で近現代史がざっくりわかる! 保阪昭和史の決定版

この1冊で近現代史がざっくりわかる!
保阪昭和史の決定版

なぜ日本は太平洋戦争を始め、敗戦に至ったのか。なぜ「玉砕」「特攻」といった無謀な作戦で多くの人命を失ってしまったのか?――
著者が昭和史の研究に携わるようになったのは、こうした謎を解明したいとの強い動機からであった。今まで5000人近くの昭和史関係者にインタビューを重ねてきたのは、それはこの根源的な問いに対する答えを探す旅でもあった。そして、敗戦に至る道筋を調べれば調べるほど、昭和だけでなく、明治維新以降の歴史をもう一度つぶさに検証しなおす作業に迫られることになった。
その結果、著者は「地下水脈」という歴史観にたどり着く。
近代日本の始まりである明治の初期に遡ろう。
徳川幕府が倒れて明治新政府が誕生したものの、新政府内の指導者には、日本が進むべき「国家ビジョン」が明確にあったわけではない。明治22年に大日本帝国憲法ができるまでのほぼ20年間は、「日本という国をこれからどのように作り変えていくか?」をめぐって、さまざまな勢力の〝主導権争い〟がおこなわれた時期だった。
著者はこの間に、次の5つの国家像が模索されたと考えている。
①欧米列強にならう帝国主義国家
②道義や倫理を尊ぶ帝国主義的道徳国家
③自由民権を軸にした民権国家
④アメリカにならう連邦制国家
⑤攘夷を貫く小日本国家
実際の歴史では、日本は①を歩み、すべてが軍事に収斂していくことになる。その結末が、昭和の悲惨な敗戦であった。
では、残る②〜⑤の国家像は、そのまま消えてしまったのか?
そうではない。4つのそれぞれの思想やビジョンは、いったん日本社会の地下に潜りながら、いまも脈々と流れ続けている。そして歴史の重要なターニングポイントを迎えるたびに、噴出してくるのである。
「地下水脈」という歴史観でとらえれば、現在の日本の窮状――経済の迷走も、終身雇用サラリーマン社会が変わらないのも、政治がダメなのも、エリート教育がダメなのも、150年以上繰り返されてきたことがわかってくる。
本書は、「地下水脈」をあらためて見つめることで、日本の近現代史を再検証する。

目次

はじめに 失敗の本質は「軍事主導」にあった
「人命軽視」の答えを探す旅/戦争が「ビジネス」であった戦前の日本/日本が模索した「五つの国家像」/「地下水脈化」した国家像/西南戦争と民権運動

第一章 日本にありえた「五つの国家像」
「歴史の地下水脈」とはなにか?/司馬遼太郎が指摘した「攘夷の地下水脈」/五つの国家像/暴力によって成立した体制は暴力でしか守れない/山縣有朋の「主権線」と「利益線」/戦争を「ビジネス」にした日本軍エリート/日本は帝国主義の「実験国家」/人身売買有罪と「芸娼妓解放令」/道義」を掲げ中国で戦った日本人/不平士族と民権運動/藩をもとにしたアメリカ型の連邦制国家/攘夷と「小日本主義」/無自覚的帝国主義からの出発/日本が植民地化を免れた要因/不平等条約という重荷/日本人乗客だけが全員死亡/プロイセンに理想の国家像を見る/征韓論の台頭/征韓論は「帝国主義」の萌芽か/天皇に武力を与える

第二章 武装する天皇制
天皇の武装化はなぜ必要だったのか?/武士と農民の不満/「軍人勅諭」で神話を国家原理に/政治への関与を厳しく戒める/「統帥権」と「輔弼」で軍人がやりたい放題/「明治政府にとって都合のよい天皇」に仕立てる/「これは朕の戦争ではない」/涙を流した明治天皇/伊藤博文の「説得」/大正天皇の文学的才能/御製に託した厭戦気分/昭和天皇の帝王学/「しかし、よくやった」/統帥権を行使できなかった昭和天皇/勝手に作られた「天皇のイメージ」/皇族が首相になるのには反対/昭和天皇の独り言/ポツダム宣言受諾を決めた理由/昭和天皇の涙の意味/昭和天皇に戦争責任はあるか?/戦争責任は「言葉のアヤ」/平成の天皇と「民主主義」

第三章 「軍事哲学」なき日本の悲劇
軍事哲学とはなにか?/「海主陸従」の逆転/フランス陸軍をモデルにする/プロイセン方式へ乗り換える/アメリカの軍制を採用しなかった理由/戦術を学んでも「軍事哲学」は学ばず/シビリアン・コントロールなき日本/丸暗記とゴマスリのエリートたち/朝鮮半島進出への野望/「主権線」と「利益線」/清を仮想敵国に設定/民権派から国権派に転じた徳富蘇峰/清を騙した西欧列強/三国干渉の屈辱と「臥薪嘗胆」/戦争の「蜜の味」/閔妃暗殺事件の謀略/森鴎外が翻訳したクラウゼヴィッツ/中国を「面」で支配する無謀/東條英機のお粗末な答弁/石原莞爾の軍事哲学/「世界最終戦争論」/アメリカを知らなかった軍人たち/「親米保守」の空虚な思想/自壊する日本のナショナリズム/いまだ軍事哲学なき日本

第四章 「戦争資本主義」の発展
戦争が「営利事業」に/「藩士」から「サラリーマン」へ/経済秩序は「藩」から「国家」へ/藩士たちの大リストラ時代/「政商」五代友厚/三菱と三井の台頭/渋沢栄一vs.岩崎弥太郎/古河市兵衛と足尾銅山/「営利活動」だった日本の戦争/欲望むき出しの帝国主義/「生産性」と「利益配当」への理解が歪む/安田善次郎の禁欲的労働観/大原孫三郎が目指した理想の企業/「資本家は民衆の敵」となる/金融恐慌と財閥の支配強化/「金解禁」という選択/昭和恐慌財閥に向けられた凶弾/中国侵略というビジネス/満州に進出した新興財閥

第五章 日本に民主主義はなぜ根付かなかったのか?
日本型民主主義とはなにか?/昭和天皇が引用した「五箇条の御誓文」/日本型民主主義の原点は聖徳太子「十七条憲法」/自由民権運動に与えた影響/天皇と国民の間の回路がふさがれる/黒田清隆の脅え/御雇外国人たちの提案を拒否/いきなり過半数割れした「吏党」/予算の通過が困難に/薩長至上主義を丸出し/政党政治のはじまり/「憲政の常道」の成立/議会政治より軍部独裁を望んだ日本人/軍人が政治家を「黙れ」と一喝/「皇紀二六〇〇年」という転回点/攘夷の思想が突如として噴出/神話を国家のルーツに制定/日本人差別への憤り/共産主義への恐怖が攘夷を刺激/仕掛けられた「神話ブーム」/不要不急」の贅沢品がやり玉に/八方塞がりの外交のなかで/蘇生した尊王攘夷/反軍部の闘士が掲げた御誓文/昭和天皇の「人間宣言」/「民主主義というものは決して輸入のものではない」/天皇が要求した御誓文の挿入/天皇側近との暗闘/天皇の「自己批判」/石橋湛山の「わが五つの誓い」/「与えられた権利」の空虚さ
参考文献

本の話おすすめ記事

著者

保阪 正康

昭和史研究家。1939年、札幌市生まれ。同志社大学文学部卒。編集者時代の1972年に『死なう団事件』で作家デビューして以降、一貫して日本の近現代史を検証し続け、約5000人もの歴史の証人を取材してきた。2004年、昭和史研究の第一人者として第52回菊池寛賞を受賞。主な作品に『東條英機と天皇の時代』、『瀬島龍三参謀の昭和史』、『昭和史七つの謎』、『昭和陸軍の研究』、『あの戦争は何だったのか』などがある

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