インタビューほか

「FA」と「逆指名」でプロ野球は決定的に傷ついた

「本の話」編集部

『プロ野球が殺される』 (海老沢泰久 著)

──年々高騰する選手の年俸も、球界を圧迫していると指摘されていますね。

海老沢  大リーグ選手会のドナルド・フェアという専務理事が今年になって引退を表明したけれど、彼が専務理事代行に就任した1983年の選手の平均年俸は28万9000ドルなのに、2009年のそれは330万ドルと、四半世紀で選手の年俸は10倍以上に跳ね上がっている。ドナルド・フェアの功績といえばそれまでだけど、ほんとうにいいことなのかどうか。レッドソックスが松坂大輔に100億円以上払ったのも異常だと思うけど、大リーグの場合は莫大な放映権料が入るからまだわからなくもない。日本の場合はほんとうに不思議だね。

  かつて日本では年間7~8勝しかできない投手なんて、その他大勢のような存在だったのに、いまではそれでも1億円はもらえるようだ。一方で、テレビの地上波はプロ野球中継を見限ってお笑いやクイズ番組ばかり流すようになったわけだから、日本のプロ野球の先行きが明るくないのは子どもでもわかることだ。

──野茂英雄にはじまり、イチロー、松井秀喜……と人材の流出も、すぐそこにある危機ではありませんか?

海老沢  野球に限らず、スポーツ選手がより高いレベルで自分の力を試してみたいというのは当然のことだろう。昔は「なぜわざわざアメリカに行って苦労するのか」という意見が大勢だったわけだから、頼もしく思う。その反面、スポーツビジネスという波に呑まれて大切なスピリットを失うことになりはしないかと考えると、最近は素直に送り出す気持ちにもなれないなあ。

──これまでに海老沢さんは、中嶋悟、岡本綾子と、海外に活躍の場を求めたアスリートを題材にされてきましたが……。

海老沢  結局のところ、「日本人とはどういうものか」というのが、ぼくにとっての永遠のテーマなのだと思う。だから、『監督』の広岡達朗、『美味礼讃』の辻静雄、『満月空に満月』の井上陽水ら、また恋愛小説、『青い空』のような歴史小説、『無用庵隠居修行』のような時代小説でも、従来の日本人のスタイルからは外れた生き方を貫く人物に光を当ててきたのだろう。

  社会構造がそうさせるのか、個人の意識の問題なのか、日本では外国とは違った感覚でスポーツが行なわれてきたと思う。『プロ野球が殺される』では、野球以外に、サッカー、相撲、ゴルフなどの競技を例にとり、日本人がスポーツとどう向かい合っているのかを書いてきた。そこにあるのは楽しい話ばかりではなく、むしろ不愉快なことがらの方が多い。選手、ファン、オーガナイザー、メディア……スポーツにかかわるすべての日本人が、心の底からスポーツを愛しているのかということを、もういちど自問するべき時期がきたように思えてならない。

■この海老沢泰久氏のインタビュー〈「FA」と「逆指名」でプロ野球は決定的に傷ついた〉は、氏の生前にインタビューさせていただいたもので、月刊誌『本の話』9月号掲載の再録です。海老沢氏は8月13日に逝去されました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

プロ野球が殺される
海老沢 泰久・著

定価:560円(税込) 発売日:2009年09月04日

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