インタビューほか

文春文庫40周年記念特別コラム
立花 隆 日本人全員が一度は読んでおくべき本

『昭和天皇独白録』 (寺崎英成 マリコ・テラサキ・ミラー 編著) ほか

 そして迎えた8月15日。徳川夢声は日記にこう書いた。「コーン……正午である。/―コレヨリ畏クモ天皇陛下ノ御放送デアリマス、謹シンデ拝シマスルヨウ(略)玉音が聴え始めた。/その第御一声を耳にした時の、肉体的感動。全身の細胞ことごとく震えた。/(略)これで好かったのである。日本民族は近世において、勝つことしか知らなかった。(略)勝つこともある。敗けることもある。両方を知らない民族はまだ青い青い。やっと一人前になったと考えよう」

 この日早朝、宮城では天皇の終戦の詔勅発表を阻止しようとして、一部若手将校が決起してクーデタまがいの事件を起していた。その顛末を書いた半藤一利『日本のいちばん長い日』は、日本のノンフィクションの傑作である。あの戦争の終わり方を知るために日本人全員が一度は読んでおくべき本といえるだろう。

 戦後の日本史のポイントをおさえるために読むべき本もまた多い。

ティム・ワイナー『CIA秘録』の第12章「『別のやり方でやった』自民党への秘密献金」は日本人全員ぜひとも読むべきだ。児玉誉士夫がCIAの秘密エージェントであったことはロッキード事件で暴露されたが、実は岸信介もそうであったことが本書で暴露されている。A級戦犯容疑者から「釈放後岸は、CIAの援助とともに、支配政党のトップに座り、日本の首相の座までのぼりつめるのである」。「七年間の辛抱強い計画が、岸を戦犯容疑者から首相へと変身させた」。本書には、CIAと岸の間をつないだミドルマンのハリー・カーン、ビル・ハッチンスン、クライド・マカボイなど実名で記されている。「岸は当初は舞台裏で仕事をし、先輩の政治家に首相の地位を譲っていたが、やがて自分の出番がめぐってきた」。その結果、「CIAが外国の政治指導者との間で培った、最も強力な関係」が生まれたのである。「岸はCIAから内々で一連の支払いを受けるより、永続的な財源による支援を希望」し、その願いは、ジョン・フォスター・ダレスによってかなえられる。その資金は少くとも15年間にわたって、4人の大統領の下で流れつづけ、それが廃止されるのは、1964年以後だったというのだ。岸以後も70年代までCIAの買収工作はつづいたという。

 最後に日本人の著者による政治とカネの裏をあばいた作品を1つだけあげれば、落合博実『徴税権力』だろう。92年に東京佐川急便事件で、自民党の実力者金丸信の5億円のヤミ献金事件があばかれたのに、検察がわずか20万円の罰金で事件を処理したために国民の怒りを買い、検察庁舎に黄色いペンキがぶちまけられ、「検察の威信回復に10年以上かかる」といわれながら、翌93年、金丸が所得税法違反で逮捕されるにいたるまでの裏の裏が実に見事にあばかれている。結局あれをきっかけに自民党の崩壊がはじまり、ついには自民党が政権を失うにいたったのだ。

天皇と東大 Ⅰ
立花 隆・著

定価:714円+税 発売日:2012年12月04日

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昭和天皇独白録
寺崎英成 M・テラサキ・ミラー・編

定価:500円+税 発売日:1997年07月11日

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日本人の戦争
ドナルド・キーン・著 角地幸男・訳

定価:600円+税 発売日:2011年12月06日

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日本のいちばん長い日 決定版
半藤一利・著

定価:600円+税 発売日:2006年07月07日

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CIA秘録 上
ティム・ワイナー・著 藤田博司 山田侑平 佐藤信行・訳

定価:1,048円+税 発売日:2011年08月04日

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徴税権力
落合博実・著

定価:524円+税 発売日:2009年04月10日

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