清涼院流水
一九七四年兵庫県生まれ。京都大学在学中の一九九六年に『コズミック 世紀末探偵神話』で第二回メフィスト賞を受賞しデビュー。発表当初から型破りな設定やストーリーが話題を呼び、読者のみならずミステリー作家の間でも賛否両論が飛び交った。その後も旺盛な執筆活動を続け、十三年間に六〇冊を越す著作がある。
水野俊哉
一九七三年東京都生まれ。大学卒業後、金融機関に就職。退職後、インターネット通販関連の会社を起業するも失敗、三億円の負債を抱える。その後は経営コンサルタントとして多くのベンチャー企業の経営にかかわりながら、世界中の成功本やビジネス書を読破し、さまざまな成功法則を研究する。二〇〇八年、初の著書『成功本50冊「勝ち抜け」案内』がベストセラーとなる。現在、「水野流水」名義で清涼院氏との共著を準備中。
清涼院 まず、水野さんと僕の関係を簡単に説明しておきます。僕はビジネス書が大好きで、小説の十倍くらいビジネス書を読んでいて、その体験を活かしたいと思って書いたのが『成功学キャラ教授 4000万円トクする話』(講談社)なんですが、小説のレーベルで出したためビジネス書の読者にはほとんど知られていなかったんです。それが、水野さんのデビュー作『成功本50冊「勝ち抜け」案内』(光文社)で取り上げられてから、にわかに知られるようになりまして……。
水野 私が『キャラ教授』に出会ったのは、事業に失敗して三億円の負債を抱えた頃で、暇になったので久々に小説でも読もうかと書店に入って最初に目についたのが『キャラ教授』でした。これが意外にもミステリーではなくいわゆる成功本で、しかもすごく面白かったんですね。その数年後、私自身がビジネス書の紹介本を書くことになり、五十冊を選んだ中に『キャラ教授』も加えたところ、ビジネス書の書評家の方から、「『キャラ教授』だけは知らなかったけど、読んでみたらすごく面白かった」と大反響をいただいて……。
清涼院 僕も水野さんのブログをチェックするようになって、初めてメールをお送りしたのが去年の七月一日。それ以来、毎日メールをやり取りすることになるなんてね(笑)。
水野 流水さんから初めてメールが届いた時は驚きました。
清涼院 それで会ってみたら、初対面なのに異常に盛り上がって、夕方五時から気がついたら翌朝五時まで一緒にいた。
水野 男と女だったら最後はホテルに行っていたというくらいの盛り上がりでしたね(笑)。文芸とビジネス書の世界には大きな断絶があるのですが、どちらも「人間の営み」というテーマは同じだと思いますし、文芸に興味を持たないビジネスマンにもぜひ流水さんの作品を読んでもらいたかった。
清涼院 「世の中をハッピーにしたい」というのが僕の信念なんですが、水野さんも同じことを考えていて、二人で文芸とビジネス書の垣根を取っ払って、最終的には世の中をハッピーにしたいと考えた企画が、今秋「水野流水」名義のビジネス書として実現することになりました。そして、この一連の流れの中で、新作『コズミック・ゼロ』が生まれたということにも、大きな意味があると僕は思っているんです。
量質転換の末に生まれた最高傑作
清涼院 今回、『コズミック・ゼロ』を書くことになったきっかけは、初代の担当であるIさんの情熱と、当初の刊行予定(昨年の九月)が僕のデビュー十二周年というタイミングで、干支(えと)が一巡するんだったらもう一度原点に戻ってもいいんじゃないかと考えたからです。僕の中の「コズミック」的なものをすべてリセットするという意味も込めて、『コズミック・ゼロ』というタイトルにしました。
僕がデビューした時は、こんな奴は長続きしない、一、二年で消えると散々言われたんです。それで、とにかく「たくさん書く」ことと「書き続ける」という目標を自分に課して、実際、十三年間で六十冊ぐらい出しましたし、二年前には十二カ月連続刊行ということもやりました。
水野 一年間、仮眠しかしなかったと言ってましたね(笑)。
清涼院 それで、もう量はいいかなと考えていたタイミングで『コズミック・ゼロ』を書くことになったので、僕の再出発として徹底的に質にこだわって書いてみようと思ったんです。これはまさに、ビジネス書でよく言われる「量質転換」にあたることで、質を高めるためには千本ノックのように量を経験しなければいけないということです。
そうやって書き上げた『コズミック・ゼロ』ですが、ビジネス書の書き手としてお読みになっていかがでしたか?
水野 最近流行(はや)りのフォトリ(ーディング)や速読で言われるように、ビジネス書の場合、どこから読んでもいいんですが、『コズミック・ゼロ』だけは絶対に後ろから読んじゃだめです(笑)。速い展開でどんどん読み進んでいって、最後の最後に何が待っているのかという楽しみは、ビジネス書では決して味わえない小説の醍醐味(だいごみ)ですからね。
清涼院 確かにビジネス書の鉄則に「最初から読むな」「好きなところから読め」というのがありますが、『コズミック・ゼロ』でそれをされては困ります(笑)。
水野 「驚天動地」という言葉はこの作品のためにあるんだと思いました。一日で何百万人が消えてしまう、とてつもないことが猛スピードで起こる、そういう話をなぜ書くのかというと、この世の中、いつ何が起こるかわからないという無常観を流水さんが感じているからだと思います。私のように、いきなり三億円の借金を抱えることもあるわけだし(笑)。
清涼院 そのご指摘は本当に鋭いですね。僕の実家が阪神淡路大震災で全壊した時、人生観や常識、創作スタイルなどそれまでの僕のすべてが一瞬で変わってしまいました。僕は昔からミステリーファンですが、あの震災を体験して以来、ミステリーで現実を超える作品はないと思うようになってしまった。まさに「事実は小説より奇なり」なんです。そういう体験を経て書き出したのが『コズミック』から始まる一連の作品なんですが、十二年以上たって、またあの時と同じような感覚を抱いているんです。『コズミック・ゼロ』で何が起きてもおかしくない世界を書いている真っ最中に、百年に一度と言われる世界金融危機が起こったりしたわけですから。
水野 世界的な金融機関が一瞬で倒産したり、世界中で同時に株価が下がったりするのは、統計上の確率でいうと百年に一度どころか、ビッグバン以来の宇宙の歴史の中で起こるはずがないくらいの異常事態です。そういう不確実なことが現に我々の目の前で起こっている、今まで信じていた世界を根底から疑わざるをえないようなことが起こるんだということを、流水さんと一緒に何度も話してきましたし、今回の作品にもそういう思想というか、無常観が表現されていると思います。世界同時株安がなぜ起こったかを分析する本は何十冊も出ましたが、予見できた人は誰もいなかったように、不確実性に満ちたこの世界では、『コズミック・ゼロ』を完全なつくり話だと言い切ることは誰にもできません。そういうビジネス的な視点から見ても、すごく面白い小説だと思いますね。
清涼院 投資のスペシャリストである内藤 忍さんも、そのあたりのテーマで興味を示してくださいましたよね。
水野 内藤さんは投資ユーザーに対する金融教育などをするマネックス・ユニバーシティという会社の社長さんで、彼に『コズミック・ゼロ』を紹介して、これを国家や経済の崩壊のシミュレーションとして読んでみると面白いのではないかとお話ししたら大変興味を持たれて、すぐに流水さんとの交流も実現しました。
私自身も日本経済が究極に悪化したら何が起こるのかとか、国家がデフォルトしたらどうなるかということを『コズミック・ゼロ』を読みながら少し考えてしまいました。
清涼院 ビジネスの第一線で活躍されている水野さんや内藤さんに僕の小説を注目していただけるのは、僕自身はもちろんのこと、小説界全体にとっても貴重なことだと思います。
水野 ビジネス書の側の人間の中にも、作家とは話が合わないという偏見があるようですが、流水さんは普通に話ができているし、人間的に興味を持たれることも多いので、今はとてもいい関係ができつつあるような気がしています。
新刊本続々、流水祭り開催中!
清涼院 『コズミック・ゼロ』と並行して書いた『B/W(ブラック・オア・ホワイト)』という作品が、太田出版からほぼ同時期に出版されます。『コズミック・ゼロ』は僕の小説家としての十二年間のテクニックをすべて注ぎ込んだ究極の作品なんですが、あまりにも総決算すぎて、これを出したら僕はそこで終わってしまうんじゃないかという危険性を感じたんですね。それでこの究極とバランスを取り、それを補完するような作品が必要だと思って書いたのが『B/W』です。『コズミック・ゼロ』で描いたマクロのスケールの事件とバランスを取るために、『B/W』ではミクロの事件を描きました。この二作を並行できたことは本当によかったと思っています。
もう一つ、映画会社のスターダストピクチャーズと組んでやっていた『忘レ愛』という携帯小説も六月に本になるんですが、これも『コズミック・ゼロ』と深い関わりを持つ作品です。『コズミック・ゼロ』の構想をお話ししていたとき、編集のIさんが、ぜひ映画化したいと言ってくださったので、僕も最初から徹底的に映画化にこだわろうと思って書き始めたんです。そんな流れの中で映画会社と組んで仕事をしていたので、僕の中で映画化ということが非常にリアルに感じられたし、実際に模索することもできました。水野さんにも第一声で「本当に映画的ですね」と言っていただきましたよね。
水野 かなり映画化を意識して書かれているんだろうなという感じはしましたね。
「成功のトルネード」とは!?
清涼院 『コズミック・ゼロ』が僕にとって特別な作品だというもう一つの点は、執筆方法がきわめて珍しいスタイルだったことです。僕は編集者から仕事を依頼されると、「わかりました」と言って、次には「はい、できました」と完成した作品を渡すような、いわば「編集者いらず」のタイプだったんです。ところが今回は日本全土を舞台にした作品ですし、途中からどう書けばいいのかわからず途方に暮れてしまって、編集のIさんとAさんに相談しました。そこから、会議室に集まって打ち合わせを重ねることが定例になったんですが、プロの編集者から毎月意見をいただくことはこの作品に限りなくプラスになったんです。作品には主要メンバーが十数人いるのですが、当初の予定では全員が脇役で一場面で死んでいくはずでした。新島という首相秘書官も電話で一度登場するだけのつもりだったのに、Aさんから「新島はもう出ないんですか?」と聞かれて、「そうか、新島を出さなきゃ」と思っているうちに主役級になってしまった。まさに編集者の神の一言で(笑)、そういう忘れられないエピソードがたくさんあるんです。今回、二人の編集者と毎月密な打ち合わせを重ねて作品を作った結果、人と人が協力し合うことで生み出される力はすさまじいものだと実感することができました。まさに「成功のトルネード」です。
水野 ビジネスの世界の言葉で言えば、「ポジティブ・シンキング」であり、もう一つは「マスターマインド」すなわち「利他の精神」ですね。今の流水さんのお話はまさに「周囲への感謝の気持ちをもつ」という利他の精神、成功へとつながるエピソードですね。
清涼院 これまでも編集者には感謝してきたつもりでしたが、今回は本当に合作者になってもらったという印象ですね、全体の何十パーセントかは編集のお二人の発想やアイデアが活かされていますから。ここまで編集者に委ねたのは僕にとっても初めての経験だと思います。
水野 そこでも「生まれ変わっている」感がありますね(笑)。
清涼院 完全に生まれ変わっているんです。昔からの読者の方の中には、どうして流水はこんなに変化したのかと驚く人も多いと思いますよ。
コズミック・ゼロ
発売日:2012年08月24日
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。